【松岡凛】部長の妹がこんなに美人なわけがないPart5【Free!】

45 ES編 ページ45

「――っ、えっ!?」
「なにをしている。置いて行かれるぞ？」

　ぐっ、と背を押されて足がトン、トンッとよろよろしながらも前に進みました。
　頭上から優しく聞こえてきた声は、兄様のものです。
　驚いて見上げれば、兄様は微笑んでいました。

「ずっと松岡のことを追い掛けるんじゃなかったのか？ 試合後の連中は皆、早く飯にありつくべく凄まじい速度で足を動かしているぞ。ほらっ！」
「わあっ！」

　大きくてあたたかい、太陽のような兄様の手に引っ張られて、足早に会場の外へ。
　凛さんが全員いるかどうか確認を取っている中に、押し込まれてしまいました。

「んじゃ、あとは――あ。御子柴さんとA、微妙に遅刻」
「ハハハッ！ おい松岡、Aに予定を伝え忘れていないか？」
「あ、」
「これで俺が遅れたのはチャラだ！」

　片手で広げた手帳用の細いペンで、凛さんが渋い顔をして自分の頭を小突いていました。
　いくつか連絡事項を述べ、一斉に『お疲れさまでした！』と声が響きました。

「それじゃ、各自解散！ 飯組はこっちだ、行くぞー」
「うぇーい！ 飯だー！」
「応援してただけなのに腹減ったー！」

　家族の元へと向かっていく方、凛さんの後を追って賑やかに進んでいく方。
　頭だけ私のほうに動かした凛さんが、私に向かって笑いました。

「Aは、こっちな」
「――はい！」

　先程の状態が嘘のように、凛さんの隣を目指して追いかけた足は羽のよう。
　隣に来いと、そこにいて良いのだと。
　そう言われたような気がして、思わず笑みがこぼれました。

「俺てっきり、Aはずっと俺の後ろにいるもんだと思ってた。置いて行って悪かったな」
「わ、私は……鮫柄の生徒ではありませんので、行きにくくて」
「良いんだよ、んなの。白波だって姉妹校だろ、一緒一緒。現にほら、あの子も白波女子だろ？」

　部員の一人と仲良く歩いていらっしゃるのは、確かに見覚えのある白波の――。
　ご飯組ではないようですが、先程まで一緒に整列してたそうです。
――私は、なにかに怯えていたのでしょうか？
　サクサクと歩きながら、私の知らない目的地へと向かって進みました。

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