【松岡凛】部長の妹がこんなに美人なわけがないPart5【Free!】

42 ES編 ページ42

.
　それを切り裂くように聞こえてきた声は、嬉しそうに弾んでいました。

『やっとワガママらしいワガママを言ったと思ったら、やっと一番を目指す気になったのかい。やっと目標を、見つけられたのかい……。分かったよ。学校の先生にも、そうお伝えしておくからね』
「えっ、どうしてそこで先生が出てくるのです!?」
『この間、進路の授業があったんだってね。皆がお星様になるだとかしょうもないことを書いて、欄埋めて出したプリント。Aだけ白紙だったって、慌てて電話寄こしたよ』

　先生……。
　確かにいつも分からないところも必ず、なにかしらの論から導いた答えを書いて出しておりました。
　名前だけ書いて、空欄ばかりの状態で提出したのは、もしかすると初めてだったのかもしれませんね。

『勉強のほうは問題ないみたいだけれど、社会勉強のひとつとして、アルバイトでもしてみたらどう？』
「母様？ アルバイト、ですか？」

　お話相手は代わりまして、母様の声が私にひとつの道を教えてくださいました。
　学校に許可出しておくから、と。

　お話はお互いが『ちゃんと聞いたし、言ったよ』というところで終わりました。
　母様はこそっと小声で、最後に言いました。
『パスポートは私が用意しておいてあげるからね』
　それはきっと、頑張りなさい、ということなのでしょう。

　兄様が言っていました。両親はワガママを待っている、ということを。
　私を支えてくれる人がいるというのは、やはり嬉しいものですね。

　もぞもぞと潜り込んだベッドはひんやりとしており、肝試しで起きた謎の心霊現象を思い出してしまいました。
　背筋がぴんと伸びてしまいましたが、徐々に私の体温であたたかくなるにつれ、眠くなっていきます。
　今夜はなんだか、寂しくありませんでした。

---

43 ES編→←41 ES編

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す