【松岡凛】部長の妹がこんなに美人なわけがないPart5【Free!】

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　帰りの移動中、兄様が妙に真剣な声で話を切り出しました。
　小さな子ども達の声で賑やかな車内でもしっかりと私の耳に届くのは、兄様の声質のおかげでしょう。

「なぁA。もしも松岡が『海外の大学に行く』と言い出した場合、お前はどうする？」
「――え？」
「もしもの話だ。俺だってそんな話は聞いていない。だが、留学経験があれば向こうにも友達がいるだろう。七瀬ほどのライバルがいたかもしれん。すると、可能性はいくらでも浮かんでくると思うんだが」
「そう、ですね……」

　私と凛さんとの間には、学年的に1年の差があります。
　来年の今頃にはきっと凛さんは大学生で、私は高校3年に。
　どう頑張っても飛び級が出来ない白波学園では、この差は埋められません。

　もしも凛さんが、海外で生活することになったなら。

「高校3年目は遠距離恋愛に……。あっ、でも。卒業後に私も凛さんのところに行くとしても、日常会話は今から勉強し直せばきっとどうにでも出来ますが、働き口がありません……!!」

　日本でさえ働いたこともないというのに、海外で働ける気はしません。きっと足を踏み入れて1年間は環境に慣れるまでで精一杯でしょうし、そんな余裕があるとは思えません。

「働き口、か。お前は松岡と同じ海外の大学に行く、という発想はしないんだな」
「ありませんね。日本の大学でさえ、兄様のところしか知らないというのに。学びたいことは大学に行かずとも、本を買えば書いてあるようなことばかりかな、なんて思いますし」

　それよりも凛さんのサポートに回る為には、やはり働いてお金を稼ぎ、私自身の生活を安定させてから――。
　そう続けると、兄様はフッと短く笑いました。

「いつの間にかAの世界は、松岡を中心に動いているんだな。あまり愛の重たい女は嫌われるぞぉ〜？」
「えっ、あの、そういうつもりではっ！ そのっ!!」
「ひとつだけ、兄として助言をしてやろう。俺達の両親は、お前がワガママを言い出すのを楽しみにしているぞ」
「ワガママ、ですか……？」

　幼い頃より沢山ワガママを言って、困らせてきたような気がするのですが……？
　高校生にもなって、ましてや生活費も趣味娯楽費も出してもらっている身で、これ以上のワガママを？
　それはあまりにも両親に甘え過ぎているのではないでしょうか。

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