35 『Part 3 一年後』 ページ35
「ずっと実家にいればいい。親はいずれ空へと旅立つが、お前一人なら天寿を全う出来るまでの貯金ぐらいあるだろう」
「ずっと御子柴家にいたら、凛さんとは一緒にいられません……」
「だからこそ将来に、大学に興味を持ったのだろう?」
きっと、そういうことだったのでしょう。
知らず知らずのうちに私の頭はコクッと肯定を示しました。
その頭に兄様の手が優しく乗ります。そして耳には穏やかな兄様の声が流れ込んできました。
「松岡の選んだ未来は、苦労が絶えない。一握りの人間しか進めない世界だ」
「それでも私は……凛さんを、追いかけたい。お傍にいたいのです」
「――だそうだが?」
私に向けてではないその言葉に頭を上げ、視線を右へ左へ。そこには知らない方しかおりません。
兄様の手が離れましたので、後ろをゆっくりと向けば、そこには凛さんが真っ赤な顔をして立っておりました。
大きな手で口元を隠されているので、表情はあまり分かりません。
「――御子柴さん。箸が転んでもおかしい年頃の妹に、なんつー社会の闇教えてんですか」
「なあに、いずれ知ることだ。考える時間が生まれる分、早いに越したことはない!」
「まぁ、そりゃ。Aが追い掛けようとしてるのは、甲斐性なしどころか、もしかしたら深い泥沼に足つっこんでそのうち沈んでいく男だぞ。安定した暮らしを提供出来る気はしないからなぁ……」
まるで『別れるなら今だぞ』みたいな言いまわしをする凛さんに、少しだけ頬を膨らませました。
ぷしー、と兄様の両手に挟まれ、その空気は抜けていってしまいましたが。
「では、私が凛さんに安定した暮らしを提供します!」
「えっ?」
「どうだ松岡、これが御子柴家に生まれた娘の根性だ!」
「だったら松岡家の長男として、根性見せるしかねーなぁ」
笑い声の上がる中で、凛さんを呼ぶ声がしました。昼飯食おうぜー、と。
凛さんとはここで一度お別れをして、再び兄様と話しながら大学構内を案内して頂きました。
「で? どうやってAは松岡に安定した暮らしを提供するつもりなんだ?」
「それは――未定です。私はそれを、白波学園を卒業するまでの課題にします」
「きっとそれを実家で伝えたら、皆が驚くだろうな」
「そんなことありません!」
凛さんには泥沼ではなく眩しい未来に足を突っ込んで、そして真っ直ぐに進んで頂きたいから。
またひとつ賢くなり、ほんのちょっとだけ大人に近付きました。
***
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bianca(プロフ) - コスミ@終わらない夏さん» やはりそうでしたか!お返事ありがとうございました。 (2014年11月15日 11時) (レス) id: 59896345eb (このIDを非表示/違反報告)
コスミ@終わらない夏(プロフ) - biancaさん» そうですね、クロスオーバーさせております。別作品で箱根の狼さんを書き始める前に、相互ネタ仕込みしたかったので。 (2014年11月13日 16時) (レス) id: a3fcdb67fd (このIDを非表示/違反報告)
bianca(プロフ) - 32にでているあらきたさんとは弱虫ペダルの荒北さんでしょうか??夢のコラボ!ですね@ 'ェ' @ (2014年11月13日 0時) (レス) id: 59896345eb (このIDを非表示/違反報告)
Alice(プロフ) - コスミ@終わらない夏さん» 軽音だったんですか!羨ましいです〜(≧◇≦) このクオリティで没案…だと…!? すごく凛ちゃんだなぁと思って浸りながら読みました(*ノωノ) モモくんのクワガタへの愛がすごいですよねw 愛しの相手にはぴゅんすけをプレゼント!!ですからねww (2014年9月22日 16時) (レス) id: be52c26f88 (このIDを非表示/違反報告)
コスミ@終わらない夏(プロフ) - さくら大好きさん» 妹(姉)がいる設定は公式であるのに、まったく影が見えないのですが多分姉大好きっ子だと思うんですよね……。凛ちゃんが二期からめっきりツッコミ係のギャグ要員化しているので、そこを活かせればなぁなんて思っております。応援ありがとうございます! (2014年9月22日 10時) (レス) id: a3fcdb67fd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:コスミ | 作成日時:2014年9月12日 14時