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「で、今日はどうした?」

オフィスに着き、河村を迎え入れた伊沢。

適当にソファに腰掛けた河村に、伊沢が切り出す。

「...単刀直入に言うけど、最近、心臓が痛くなったことはない?」

たしかに突飛な発言ではあった。

しかし伊沢は河村の言葉にあまり反応せず、

「いやあ、特にないな」

と不思議そうに眉を下げるだけだった。

「そう。あのさ、これは信じられない話だし、信じなくても大丈夫な話なんだけど」

河村は覚悟を決めた表情で、ポツポツと言葉を繋げる。

「え、何?」

「もし、僕が伊沢の寿命がわかるって言ったらどうする?伊沢だけでなく、もうすぐ死んでしまう人の」

言い終わってから、河村は少し後悔した。

友人の悲しむ姿を見るのは辛い。

そして、僕は今から伊沢の偽善者になるのだ。

「えっ、どういうこと?俺の寿命がわかるの?」

伊沢は混乱を隠しきれない様子だ。

無理もない。第一そんな話は信憑性がない。

「うん、そうなんだよ」

できるだけ落ち着いた声で、淡々と河村は言った。

「すごく言いにくくて、ずっと黙っていたんだけど。伊沢は、伊沢は...」

彼はそこまで言って、次の言葉が口にできないでいた。

言ってしまった方が相手のためだとはわかっている。

しかし、その言葉には悲しみと驚き、その他色々複雑に絡み合う感情が存在する。

「俺が?何?」

伊沢は河村の言葉を待っているようだった。

「伊沢は......もう、少し、なんだ、生きられるのが」

もっと遠回しな言い方でもよかったのかもしれない。

でも、彼はそう言った。

「......そう、か」

伊沢の表情は硬直し、その瞳はどこでもない場所を見つめていた。

「ごめん。急に。でも、その、伝えなくちゃ、と」

河村は涙を懸命に堪えながら、伊沢の瞳を見つめ、言った。

「俺、なんでタヒぬの?」

枯れかけた花のような声で、伊沢がポツリ。

「まだ詳しくはわからない。でも、恐らく心臓ガンだろう、と思ってる」

「......そっか。そうなのか、ああ」

伊沢は今にも壊れてしまいそうだった、そんな彼を優しく抱擁する。それは河村にはできなかった。

ただ伊沢の手に自分の手を少し重ね、過ぎていく空虚なこの時間を、二人で見つめているだけだった。

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作者名:yoyo | 作成日時:2020年1月19日 13時

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