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河村side
Aは、意外にも前向きだった。
いや、前向きという表現もおかしいが。
よくよく話を聞けば、大泣きしていたのは突然過呼吸になったり、とにかく色んなことが起きてパニックになっていただけであって、耳が聞こえなくなったことへのショックはそこまで大きくなさそうなのだ。
僕としてはもっと悔しいとか、悲しいとか、そういう感情がぐちゃぐちゃになっているものかと思ったが、それより今後どうすればいいのかということが不安で堪らないらしい。
どうやら僕が思っていたより、Aはある程度覚悟が出来ていた様だ。
ひとしきり泣いて、徐々に落ち着いてきた様子の彼女に、一旦脳内を整理させる。
何が一番心配なのかを聞けば、小さく鼻を啜った後、
『QuizKnockは続けるとして、大学を、どうしようかって。』
なんて尻すぼみになりながら答えた。
｢まだ大学でやりたい事があるの？｣
少し分かりきった質問だったが改めてそう尋ねれば、
『うん。』
と、今度ははっきりと頷いた。
まぁ、そうだよな。
だって浪人までしてようやく入った大学。
彼女はまだ2年しか通っていないのだから、そりゃあやり残した事は沢山あるだろう。
けれど。
『でも治るまで待つなんて、それこそ無謀だと思って。技術のブランクってそう簡単には取り戻せないだろうから…』
なんてモゴモゴ言うAに、
｢じゃあ、もう答えは出てるんじゃない？｣
と言えば、彷徨わせていた目線がパチリと合う。
いつもAはそうだった。
どうすれば良いのか分からない、と言って僕を呼びつける割には、大抵彼女の中では既に答えが決まっている。
だから正確には、客観的な指摘が欲しい時か、背中を押して欲しい時に僕は呼ばれるのだ。
今回の場合は、まぁ圧倒的に後者なのだろう。
長い沈黙が訪れる。
しばらく俯いていたAだったが、ゆっくりと息を吐くと、
『そうだね。』
と呟いた。
｢今まで、よく頑張ったよ。｣
本当に、心から出た言葉だった。
またひとつ、彼女は涙をこぼした。
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きゃる(プロフ) - さくさん» コメントありがとうございます。そう言って頂けるととても嬉しいです！ (2021年12月12日 21時) (
レス) id: 90b0f7c65f (このIDを非表示/違反報告)
さく - あ、好き.... 私基本的にkwmrさんの小説読まないんですけどこれは素晴らしいと思いました。更新頑張ってください! (2021年12月12日 15時) (レス) @page50 id: dc6ef9e765 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きゃる | 作成日時：2021年10月4日 20時
