Episode8 ページ8
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その日の夜、店の閉店後
仕事がやっと終わり、疲れきった私は
二階のテーブル席で眠ってしまった。
目を開けると、何故かオーナーがいた。
「 ぬえっ、オーナー?! 」
肩にはブランケットがかかっているし
オーナーは目の前の席に座って
私の頭を撫でている。
「 すみません、寝てしまって 」
私が起き上がろうとすると、
「 なあ、オーナー呼び、そろそろやめへん? 」
と声がした。
「 えっ、どうしてですか? 」
「 その、なんかお前との距離が遠く感じるやん 」
初めて「お前」と言われたことと、
理由に納得がいなかったことで、
私は首を傾げる。
今日のオーナーはどこか変だ。
「 あ、あのお酒飲んでます? 」
と訊くと、コクん、と頷いた。
「 やっぱりですか...... 」
「 まあええやん、オーナー呼び禁止な 」
と、立ち上がろうとするオーナー。
足取りはおぼつかない。ふらふらである。
「 オ、いや川上さん、待ってください 」
オーナー、いや川上さんの手を取り、
一階にあるソファに座らせた。
「 そんなんで帰れるんですか? 」
返事はない。
完全に酔っている様子だ。
「 誰と飲んだんですか 」
「 ふくらさん、いざーさん、かーむらさん 」
舌も上手く回らないようで、
私はブランケットをかけて、
そのまま寝かせることにした。
明日は定休日の月曜だったので、丁度いい。
伊沢さんという名前に反応してしまったのは
胸の内に留めておこう。
「 じゃあ、先に帰りますね 」
この前と逆の立場じゃないか、と思う。
バッグを持ち、ドアの方へ向かおうとすると、
腕が掴まれた。
「 お、じゃなくて、川上さん?どうし___ 」
言い終わる前に、
気付けば私は川上さんの膝の上。
「 ど、どうしました? 」
焦って、動けないでいると、
川上さんの腕が伸びてきて、
私を抱きしめる形になった。
「 ちょっと、酔すぎですって 」
と笑うと、
「 ......好き、Aちゃん 」と聞こえた。
「 え...... 」
突然の状況と告白に頭がフリーズしてしまい、
完全に動けなくなった。
「 返事はいい。しばらくこうさせて 」
数分間、私は抱きしめられていた。
不覚にも、胸の鼓動が波打って、苦しかった。
そして、川上さんの告白も、苦しかった。
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作者名:素粒子 | 作成日時:2019年8月31日 2時