Episode5 ページ5
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「 ちょーっとオーナー、来てください！ 」
大変です！と私は呼びかける。
「 あ、あのやつが。黒光りするやつがいます！ 」
必死に本棚の奥を指す。
オーナーはのろのろとやってきて、
「 あ、これ？まあ、別に大丈夫やろ 」
と呑気なことを言った。
「 はあ？ 駄目です！1匹居たら100匹いるんです！ 」
と必死に助けを乞うが、抵抗虚しく。
オーナーは気にもとめない様子で、
去っていった。
「 おかしいでしょ...... 」
しばらくすると、客がやってきた。
チリンチリン。
「 あ、えっ、伊沢さん 」
オーナーは、奥の倉庫に片付けに行っていた。
思わず声を上げてしまう。
「 あ、Aさん 」
愛想の良い笑顔とマフラー姿に、
胸がチクリとする。
私は、胸の痛みなど気付かないフリをする。
「 オーナーは、今倉庫です、呼びますか？ 」
と訊くと、少しして首を横に振った。
「 今日は、僕に本を選んでもらいたくて 」
そういう伊沢さんは、
やや恥ずかしそうに目を逸らした。
「 あっ、はい！ 私でよければ 」
私は精一杯の笑顔で応えた。
なんという幸運。
また会えるとは思ってもみなかった。
それに、伊沢さんは一人で来た。
嬉しすぎて舞い上がりそうだったが、堪える。
「 こちらなんていかがでしょう 」
伊沢さんに紹介したのは、私のお気に入りの本。
『翻訳できない世界のことば』というものだ。
「 ほぇー、なにこれ、面白そう 」
伊沢さんなら知っているという可能性もあったが、
反応を見るに、知らない本のようで、安心する。
「 これは、世界の、ひとことでは翻訳できない言葉を、素敵な文章とイラストで表現した本なんです 」
「 私はこの本がすごく好きで、ほぼ毎晩、寝る前に読んでます 」
伊沢さんは興味深そうに私の話を聞いてくれた。
「 ......じゃあ、これを読めばAさんと間接的に時間を共有できるってことか 」
「 えっ、と、、、」
はい？！
今サラッととんでもないことを
おっしゃいましたよね！？
時間を共有？！
私なんかが、おこがましすぎる......。
「 あ、その 」
私はなんと返したらいいのかわからず、
言葉に詰まる。
「 ははっ、冗談ですよ 」
「 顔、赤いです 」
と言われ、さらに顔の温度が上がるのがわかる。
距離が近い。
「 面白いな、Aさん 」
ふいに、伊沢さんと目が合う。
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作者名：素粒子 | 作成日時：2019年8月31日 2時
