Episode3 ページ3
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「 いただきます 」
全員が律儀に手を合わせて食べ始めた。
微笑ましい光景に、クスリと笑う。
すると、ふと伊沢さんと目が合った。
「 な、なにか付いてますか? 」
私は困惑し、自分のエプロンを見渡す。
「 あ、いや、そのほっぺに、クリームが 」
と、自分の左頬を触る伊沢さん。
「 えっ!! 」
驚いて触ろうとすると、
急に後ろから手が伸びてきた。
「 ひっ! 」
「 とれた 」
気がつけば真後ろにオーナーが。
右手で私の頬についていたクリームをとって、
舐めた。
「 ひゃー、川上さん大胆ー!! 」
「 うわーお、これはキュンキュンですなー 」
「 うわ、青春みたい 」
「 ケーキ本当に美味しいです 」(この声は河村さん)
などと声が上がり、私は赤面した。
何をしてくれているんだ、と
至近距離にいるオーナーを見上げる。
オーナーは平然とした面持ちで突っ立っている。
「 なにか? 」とでも言いたげに。
仕方なく、席の方に視線をやると、
伊沢さんはなぜかボケーッとしていた。
他のメンバーとは違い、騒いでいない。
どうしたのだろう?と、首を傾げたが、
それから、伊沢さんと目が合うことはなかった。
「 今日はありがとう 」
福良さんが入口付近で言う
「 にしてもアツアツだね 」
と須貝さん。
「 これはそういう関係なのかな 」
と呟く河村さん。
違います、断じて違います
「 おう、明日な 」とだけ返すオーナー。
まったく聞いていないかのようだ。
6人を見送った後、
食器の片付けをしていると、
窓際のカウンター席で本を読んでいた
西城さんが、口を開いた。
「 あなた、川上さんが好き? 」
「 えっ 」
思わぬ質問に、固まってしまう。
今まで男性として、意識したことはなかった。
さっき、人様の前であんなことをされた時は
恥ずかしくて赤くなったけれど、
オーナーとしてしか見たことはない。
頼れるお兄さんのような。
川上さんは、優しくて包容力のある人だ。
「 好き、かどうかはわからないです 」
「 でも、頼りにしていますし、尊敬してます 」
「 そうなのね 」
と、注ぎたての紅茶を啜った。
しばらく、沈黙が流れる。
「 あの、どうして? 」と訊ねる。
西城さんは少し考えたあと、
「 川上さんは、多分片想いね 」
とだけ言って、視線を本に戻してしまった。
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作者名:素粒子 | 作成日時:2019年8月31日 2時