Episode14 ページ14
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キッチンの福良さんに見つからないかと
心配でたまらなかったが、
伊沢さんが起きる様子もないので
そのまま動かないでおくことにした。
しばらくそうしていると、
ふいに伊沢さんが目を開け、ハッと気づいたように
私から距離をとった。
「 うわ、ごめん、まじでごめん 」
両手を合わせて謝る伊沢さんがすぐ側に。
「 い、いえ 」
そのままで良かったのに、とはとても言えない。
「 今日、伊沢さんお疲れのようですし、しっかり休んで...... 」
と言いかけると、伊沢さんは首を振った。
「 あのさ、俺、ちょっとおかしくなってた 」
と喋り始める。
「 俺、Aさんの彼氏でもないのに、川上さんに嫉妬して、食事中Aさんと話したくなくて 」
「 ほんと、情けないんだけど 」
伊沢さんは頭を少しかいて、
ややうつむき加減に言った。
「 俺、最初にあったとき、Aさんに一目惚れしました 」
「 正直、今日の髪型可愛すぎてやべぇし、どうしたらいいかわかんなくて 」
顔を最高潮に赤らめる伊沢さんを見て、
私も赤面した。
「 ええ、と、その、私もです! 」
思い切って言った。
「 え......? 」
「 最初にお会いしたとき、ひ、一目惚れしちゃいました...... 」
わああああ、と顔を手で覆う。
恥ずかしくて、相手の顔が見られない。
キッチンの方に目をやれば、
福良さんはいつの間にかいなくなっている。
「 やっば、すっげぇ嬉しい...... 」
伊沢さんは綺麗な指で顔を覆う。
「 でも、本当に私なんかで 」
「 うん、Aさんがいいな、俺 」
「 今、フォレルスケットだわ 」
と、ニヤリとして伊沢さんはいう。
「 あっ、あの本、読んでくれたんですね! 」
『フォレルスケット』
ノルウェー語で、
語れないほど、幸福な恋に落ちている。
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作者名:素粒子 | 作成日時:2019年8月31日 2時