Episode12 ページ12
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川上さんと一緒にリビングに戻ると、
三人は鍋に使う食器の用意をしていた。
川上さんの姿を見つけた福良さんは
「 あ、川上大丈夫なの 」と言った。
「 うん、酔いは冷めた 」
と川上さんは言い、床に腰を下ろした。
「 じゃあ、誰かさん来ないけど、始める? 」
須貝さんがそう言ったので、
「 も、もう少しだけ待ちません? 」
と、私は提案した。
伊沢さんが来るのを待ちたい。
伊沢さんと一緒に鍋をつつきたい。
すると山本さんはニコッとして
「 いいよ、待とう! 」と返してくれる。
他の二人も賛成してくれて、
結局、伊沢さんを待つことに。
雑談などをしながら待っていると、
数分後、伊沢さんはやって来た。
ガチャ。
「 ごめーん、寝坊した 」
額が出るように綺麗に分けられた長めの前髪、
赤と黒のチェックのマフラー。
紺色のコートからは洒落たワイシャツが覗く。
外の冷気を持ち、寒さからか
少し頬を赤くした伊沢さんを見て、
私の胸はドクンと波打った。
「 やっと来たかー 」
「 おそーい、腹減ったわ 」
とメンバーが口々に言う中、
伊沢さんは私の姿を発見し、口を開けた。
「 あれっ、Aさんじゃん! 」
「 福良さんがね、連れてきてくれたの 」
と須貝さん。
あ、そう。とだけ言うと私と目も合わせず
コートを脱いだ。
私、何かしてしまっただろうか。
そもそも、
ここにいること自体おこがましすぎるのでは。
「 ......今日はいつもと雰囲気が違って、素敵ですね 」
完全に伊沢さんに冷たくされていると感じて
川上さんの隣に座った私に、
伊沢さんはそんなことを言った。
「 あ、ありがとうございます 」
「 到着早々口説くなよー 」
「 川上さんが嫉妬しちゃう! 」
などと声が上がるが、
川上さんは気にしていない素振りで、
鍋の支度をし始めた。
心なしか伊沢さんの顔が赤い。
部屋に入ってきたときより、明らかに赤い。
暖房の効き過ぎだろうか。
「 伊沢さん、暑いですか? 」
「 え、いや? 」
と言った伊沢さんは手で顔を扇いだりしている。
「 僕は髪、下ろしてる方が好きです 」
伊沢さんは少し目にかかった前髪を
こちらを向けながら言う。
「 ありがとう......ございます...... 」
私は胸がいっぱいになって、
伊沢さん以上に顔は赤く染まっているだろう。
「 さ、お鍋食べましょ 」
と、下手に誤魔化した。
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作者名:素粒子 | 作成日時:2019年8月31日 2時