沈没船へ語る izw×ymmt ページ22
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「ねえ」
俺は目の前の恋人に向かって話しかける。
沈没してしまったのは昨夜だ。
沈没? 何かって?
俺の恋人はしばらく眠るそうだ。
と言うと優しく響くのだが、実際はそんなに綺麗なおとぎ話ではない。
昨夜、恋人の山本が事故にあった。
幸い、命に別状はないですよ、と使い古された陳腐なフレーズを医者は口にした。
ですが、しばらく入院していただきます。脳の機能が回復していません。
と、無機質な声で医者は言った。
もしかしたら、一部記憶を失っている可能性がありますが、明日検査してみます。とも。
突然の不運に見舞われた恋人は、ロミジュリみたいの最後のシーンみたいに健やかな顔で眠るのだが、その穏やかさが逆に俺を痛めつける。
「どうして」
俺の声は空虚な白い空間にかき消されていき、やがて形を失う。
「起きて、ねえ、」
恋人の健康的な腕に触れる。
俺は彼の元へ駆け付けてからというもの一睡もしていない。
『もしかしたら一部記憶を失っている可能性があります』
医者の声がよみがえる。
「嘘だ......。そんなの嘘だ」
「なんで? 俺じゃなかったの」
世の中の不条理さに悔しくなって、強く握った拳をただ握りしめることしかできない。
「ああ、俺、山本がいなきゃダメなんだなあ」
失ってから気付く、というのはまさにこのことなんだなと俺は思った。
「ロミジュリだと最後は一緒に死んじゃうんだよ。でもさ、山本はまだ死んでないし、俺はそんなカッコイイ死に方できないと思うし」
ブツブツと呟いていると、恋人の腕がぴくりと動いた。
「...山本? 起きたのか!?」
慌てて椅子から立ち上がる。
顔を覗けば、頬に雫を垂らしながら笑っていた。
「......伊沢さん、」
「ぼく、も、伊沢さんがいなきゃダメみたいです」
と彼は笑い、
「愛、伝わりました。僕は沈んでいたんですけど、伊沢さんのうるさい声で引き上げられて」
とまた笑った。
俺は恋人の涙を拭い、優しく抱擁した。
「よかった」
「ああ、伊沢さん、あなたはどうして伊沢さんなの!」
恋人は急にふざけはじめる。
「山本、お前はどうして山本なの」と返せば、
「ふふ。伊沢さんが愛してくれるから山本なんです」
と、1枚目上手の事を言い、俺の大好きな顔で笑った。
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ゆーり。(プロフ) - wtnbさん受け美味しかったですありがとうございます( ˇωˇ )kwkm×wtnbのお話ってできますかね、、、?できるのなら、お願いします!リクエスト&コメント失礼しました! (2020年2月26日 19時) (レス) id: 46907796aa (このIDを非表示/違反報告)
yoyo(プロフ) - 緑茶さん» リクエストありがとうございます!はい、書かせて頂きます。 (2020年2月16日 15時) (レス) id: 482fadba84 (このIDを非表示/違反報告)
緑茶 - コメント失礼します!リクエストなんですが、編集長×神ってお願いできますかね?シチュはなんでも大丈夫です。 (2020年2月16日 14時) (レス) id: b20aeec65c (このIDを非表示/違反報告)
yoyo(プロフ) - 紫陽花さん» ありがとうございます!作ってみますねー!気長にお待ちください (2020年2月14日 5時) (レス) id: 482fadba84 (このIDを非表示/違反報告)
紫陽花 - コメント失礼いたします。いつも拝見しています。リクエストでkwmrさん×sgiさんのお話がみたいです (2020年2月13日 21時) (レス) id: 9e4397637e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:yoyo | 作成日時:2020年1月24日 0時