follow my hand (ページ24)

今日:2 hit、昨日:6 hit、合計:30,748 hit

　. ページ24

.

Aさんに何かを言われた気がするのに、頭の中はすでに夢の事で一杯で。

現実を追う前に、夢の記憶をただ思い出したい気持ちのまま、そちらに思考のベクトルを全振りしてしまった。

撮影部屋を出ようとした時、また夢の情景と今とが重なって我に返り、ようやく現実に引き戻された。

「あ、の…！」

突然の事に動揺したというよりは、夢を意識するあまり手を引き返してしまったのかもしれない。

Aさんがまた夢の通りに振り返って、少し驚いたように俺の顔を見た。

「えっと…」

夢で見た景色は、目が覚めたことで、ここで終わってしまったのに。

まさか自分が求めた夢の続きが、こんな形で目の前に現れるなんて…。

半ばパニックの頭では言葉ひとつ発することも難しくて二の句が継げないでいると。

そんな姿を見て、Aさんは何かを察したように、繋いでいた手をパッと離してしまった。

『そうだよね、手相占いの本参考にしに行くのに、一緒に行く必要全く無いよね。ごめんごめん。ノブ君の手相があんまりにもイメージ通り実直だったから私もつい興奮しちゃって』

申し訳なさそうに笑うAさんは、ここで待ってて、と言い残して１人で撮影部屋を出ようとする。

その間際。

離れてしまう、という単純な思いだけで動いた体は、咄嗟にその手を掴んでいた。

「A、さん！」

再び振り返ったAさんの視線と俺の視線が近距離でぶつかる。

こんな時に何故か、スマホの中で見たあの言葉が、ふと脳裏によぎった。

【もし相手があなたの手を引っ張っていたら、その人からのアプローチで交際が始まるかもしれません】

じゃあ俺が手を引いたこの状況は？

それに背中を押されたのか、もしくはせめてもの抵抗なのか。

意を決して、その手を強く握った。

「俺、Aさんが好きです」

一瞬、呆気にとられたように目を見開いたAさんの顔が、みるみるうちに赤く染まって行く。

『な、何言って…え？の、ノブ君？』

Aさんからすれば、何の脈絡もなく突然同僚から告白されたのだから、驚いて当然だ。

けれど、もう止まる事なんか出来なくて。

「ずっと尊敬してて、憧れてて…ずっと、好きで…。だからこれから、ずっと一緒にいてくれませんか？俺、Aさんの一番近くにいたいんです」

あの夢の続きを今この言葉に託して。

俺はもう一度、その手をそっと握り直した。

Aさんとの未来が。

ここから始まることを、ただ願って。

.