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「大丈夫!俺がそばにいるんだから、もう大船に乗ったつもりでいなよ!」

鼓舞するようにニッと笑って、急にバンバンと背中を叩かれたものだから、持っていたスケッチブックからペンが落ちてしまった。


「ご、ごめん!」


まるでいつかの時が再現されたようで心臓がひとつ脈打って。

拾い上げてくれた渡辺さんの手と、受け取った私の手が重なり、その温もりが手のひらに伝わっていく。


「え、手ぇ冷たいすぎない?!」

『す、すみません。やっぱり、緊張してるみたいで…』


へらりと笑ってみても、ペンを持つ手が少し震える。

本番まであともう少し。

タイムリミットは、刻々と近づいている。


「そっか…」


一瞬の間の後、目の前の渡辺さんの手が、自分の手にそっと添えられて。

まるでペンごと包み込まれるように、その両手ですっぽりと覆われてしまった。


『っ…!?』


突然のことに驚きが隠せずにいると、渡辺さんの口からポツリと言葉が溢れた気がした。


「好きだよ…」


聞こえるか聞こえないか、空耳かと思うくらいの声量で突然呟かれたその言葉が信じられなくて。


『へ…え…?』


よくわからない声だけが唇からこぼれてしまう。

そして。

手のひらをじっと見つめていた渡辺さんが、弾かれたようにハッと我に返り、急激に顔を赤らめ始めた。


「っじゃなくて!違う違う!違うから!い、今の無し!いや、その、Aちゃんに、頑張ってって…そうだよ!頑張ってって言うつもりで俺…!っあーもう!違うんだって!手もこんなに冷たかったらカンペ書けないし、スケッチブックとかもめくれないじゃん?!お、俺手あったかい方だし、その、あっためてあげられるかなって。ほら、カイロ代わり!!」


手を包み込まれながら、目の前で怒涛の勢いのまま必死に話す渡辺さんを見ていると。


『ふっ、ふふ…』


不意に笑いがこみ上げてしまった。


「ちょ!!なんで?!え?!今笑うとこあった?!」

『ふふ、ごめんなさい。違うんです、すごく、ありがたくて。渡辺さん見てたら、なんだか緊張してたのがどっか行っちゃうみたいで…ふふ…』


まるでこの手の温もりに溶かされるように、身体も、気持ちも、ふっと解れていくのがわかる。


『ありがとうございます渡辺さん。私、頑張りますね』


虚勢でも見栄でもなくそう伝えることが出来て、2人で赤くなりながら笑い合った。

暖かいお守りのようなペンと共に。

小さな恋の始まりは。

この手に導かれて。


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作者名:SEN | 作成日時:2021年10月16日 0時

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