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オフィスに到着してから、とりあえずデスクにカバンを置いて、ソワソワと辺りを見回してみた。

Aさんの姿は近くに見当たらなくて、ホッとしたような、寂しいような気持ちになる。

まだ、夢に出てきた人がAさんと決まったわけではないのに、壮大な早とちりも良い所なのだが、それでも意識してしまうには十分な内容だったことに変わりはない。

今すぐ会いたいような会いたくないような、そんな気持ちのやり場に困っていたその時、撮影部屋の方から声が聞こえた。


「あ、ノブじゃん」

「お、乾。おつかれー。今撮影終わり?」

「そうそう」

「活躍した?」

「んー…まぁまぁ?ノブは編集?」

「いや、撮影って言われてるから、次かな?」

「んじゃ、俺の分まで頑張ってー」

「活躍できてないんじゃん!」


何だよそれ。と、乾と笑い合うことで少し気が紛れた気がした。

お疲れーと手を振って別れ、撮影進行のホワイトボードを見に行く。

やはり撮影順はこの後のようで、ここで時間を持て余すよりはと撮影部屋に向かった。


「お疲れ様でーす」


扉を開けると、機材はそのままに、スタッフ陣の入れ替えや準備等で数人がもう部屋に入っている状態だった。

軽く挨拶を済ませ、邪魔にならないようにソファーに移動して着席する。


(ここにもAさんは、いない…か)


今日は出勤してないのかもな、と若干残念に思いつつ、手持ち無沙汰解消のために携帯を取り出した。

画面を開けば先ほど電車で見たままの夢占いのページが表示されて思わず息を飲み、恥ずかしさから、慌ててホームボタンを連打してしまう。


「はぁあ…」


あの夢に振り回されすぎだよなぁ、と心の中で独りごちて、無意識に、大きなため息をついていた。


「あれ?ノブ君お疲れ?」


不意に撮影部屋の入り口辺りから聞こえたその声は。


「A、さん…」


今、最も俺の心が求めているであろう張本人で。


「大丈夫?」


心配そうに視線を向けてくれる姿を、しっかりと目に焼き付けるように凝視してしまった。


「いや…その、あー…朝からちょっと、ついてなくて…」


ドキドキした気持ちが隠せずに、それでも、Aさんに話しかけられたことが嬉しくて。

俺はそのまま嘘をつくことも取り繕うことも出来ず、当たり障りなく今朝からのことを何故か報告してしまっていた。


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作者名:SEN | 作成日時:2021年10月16日 0時

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