「だ」で始まる一番言いたいこと【QK】

抱きしめて ページ9

”女の子なんだから”

　その言葉に、無性に腹が立った。わたし、そんなに女の子らしくないかな。
　そもそも女の子なんだからって何？ 男の子だったらよかったワケ？

　「意味わかんない」

　寝転がっているわたしを無視してソファに座ったこうちゃんを叩く。
　アイスを食べ終わってごみになったスティックを渡せば、こうちゃんはあきれ顔ながらも受け取ってくれる。
　こうちゃんはぽいと近くのごみ箱に放ったあと、わたしのほうを見た。
　無表情だ。いつもはムダにへらへらしているのに。

　「なんで、そんな悲しそうな顔してるの？」

　こうちゃんは言った。視線の先には――というかこの部屋には、わたししかいない。

　わたしは悲しい顔をしていたのか。むしゃくしゃした感情の中で、その言葉が腑に落ちた。
　そうか、わたしは悲しかったんだ。

　ばかみたいに思われるかもしれないけれど、こうちゃんに言われるまで、本当に気が付かなかった。
　ぐちゃぐちゃと、言葉にできない感情で満たされていたから、悲しいって気が付けなかった。

　「なにかあったの？」

　返事をしなかったわたしを心配してなのか、こうちゃんは続けて声をかけてくれる。
　お節介なのは長男だからだろうか。

　いつもは鬱陶しいけど、今はなんだかほっとした。たぶん、こうちゃんがいつものこうちゃんだったからだ。

　「……ねえこうちゃん」

　夏休みという非日常だったから、二人きりだったから、夏だったから。
　そんな理由は全部後付けだ。

　「ん？」

　こうちゃんがじっとわたしのほうを見ている。手を伸ばせば、届く距離。

　「抱きしめてほしいの」

　わたしが発した言葉は、こうちゃんの表情を崩すのに十分だった。

　リアクション王とか、言われてるんだったっけ。頭の隅っこでそんなことを考える。
　わたしは起き上がって、間抜け面のこうちゃんの隣に座りなおした。

　肩が少しだけ触れて、こうちゃんが少し距離を取った、気がした。

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