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pass one's hand #1 wtnb ページ10

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 冷房をきかせている車内から冷たい空気が逃げていくのが嫌で、いつもだったら頑なに開けない窓。…それが今日は全開!

 暑いけどテンションが上がっているふたりには関係ないみたい。


 潮の香りが鼻をくすぐる。




『海だ〜〜!!』
「テンション(笑)」
『航平もやって!…せーの、』


「『海だ〜〜!!!』」




 ベストなタイミングで流れ出す夏の曲にテンションがもう一段階上がる。

 ちらりと横を見ると携帯を弄って夏の曲をかけてるDJ(航平)がいて私の頬は緩む。…航平はワクワクが隠し切れない私を見て、助手席で笑いながらジュースに手を伸ばした。


「運転してもらうのも意外といいね?」
『車で出勤してたらドライブテクが上がった』
「その他特典は?」
『夜景スポットだけ詳しくなったわ』
「え!」


 ガーンとショックを受けて、ストローが彼の口から外れる。


『一人で見ても虚しいけど』
「…なんだ、よかった」
『ふふっ』


 仕事帰りに一緒に見る人なんていないのに。
 分かりやすい反応に自然と笑みが零れてしまう。

 揶揄われたと気付いた彼が不貞腐れた表情でカーナビに視線を落として、“お、もうすぐじゃん!”と言った。途端にきらきらと輝く瞳。


 すぐに機嫌が直っちゃって恥ずかしそうにしてる彼が、何事もなかったフリをして窓の外に目をやるのが可愛かった。


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『旅館の目の前が海っていいねえ』
「部屋からも海見えたもんなー」


 なんて言いながら、夕日を背負って浜辺を歩く。


 チェックインと荷物だけ運ぶのを済ませて出掛けよう!って意気込んでいたのに、泊まる部屋があまりにも綺麗で1時間以上うだうだと寛いでしまった。


『夕日がこれだけ綺麗だから、朝日とかも綺麗そう!』
「起きれんの?」
『……無理っ』
「素直かっ」


 ははっと笑う彼と夕日でオレンジに染まる空が重なって見えて、なんだか凄く眩しく感じた。


 車内で見た可愛い表情も こういう格好いい表情も独占出来るなんて……嬉しくて。

 へらりと笑うと頬に赤みが差す航平。夕日のせいかな?と覗き込むと片手で口元を隠して“見なくていいの”と口にした。


 そのまま、空いていた航平の手が私の頭をポンポンと撫でる。


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作者名:遊馬 | 作成日時:2020年6月13日 21時

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