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 丁度1時間経った頃、ピンポーンとチャイムが鳴る。インターホンに映る祥彰にぎゅっと心が掴まれたみたいだった。


 いつ見ても格好良いなぁ。…なんて。

 思っちゃうのも仕方ないよね。


『…はーい、今開けるね』
「うん」




 ドアを開けた先には、虹色の傘を持った笑顔の祥彰がいた。




 なんてことない、日のはず。


 朝起きて、ご飯を軽く食べて、暇潰しにはじめた読書に身が入らず、ぐるぐると黒い感情に襲われて。考え過ぎちゃう自分が嫌で、無理に明るい曲を聞いて、曲と曲の間に聞こえてくる雨の音でまた気分が下降して。

 何が嫌、とかそういうことじゃなくて。


 何となく全てを楽しめなくて、下へ下へと落ちていく。


 色付いてない世界にいたんだ。
 気付かないうちに、モノクロだった。


 彼が色を持って現れるまで、気付かないなんて。


「A?」
『っ、』


 名前を呼んでくれるまで限界だと気付かないなんて。


『――とんでもない、馬鹿だなぁ』
「え?」
『……なんでもないよ』


 私が笑顔を見せると、ぐっと眉を顰めた。


「無理して笑わないでよ。」


 「無理なんてしてないよ」と言うつもりだったのに、悲痛な彼の表情に喉が張り付いたみたいに声が出なくて……俯く。


 虹色の傘を持っていたはずの彼の手が私の方へ伸びてきて、私は裸足のまま外へ引っ張られた。

 カタンと傘の転がる音がして、腰に腕が回されると同時にドアへと押し付けられる。


 強い力、しっかりした手の感触。
 少ししか変わらないはずの身長に似合わない、男のひとの感触に思わずどきどきした。


『祥、彰…』
「僕じゃ頼りない?」
『ちが、』
「違くないよ。1人で塞ぎこんで、まるで僕のこと見えてないみたい」
『っ、』


 きゅうと1人で塞ぎこんで、迷惑をかけていないつもりだった。
 この何となく押し寄せる不安が小さくなった時に会えればいいと思ってた。


 いつも通りを演じてたはずだったのに。どうして。


「僕、なんのためにAの傍に居るの。」


 どうして?


「いつ呼んでも駆け付けてあげるのに、なんで独りを選ぶの。」


 ……どうして気付いちゃうんだろ。


「A」
『ごめ、…っごめん、すき……だいすきなの、っ』


 口を衝いて出たのは何の変哲もない謝罪と、愛の言葉だった。


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作者名:遊馬 | 作成日時:2020年6月13日 21時

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