lead by the hand #1 ymmt ページ1
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――あっという間に5月が過ぎて、しとしとと雨が降り続く季節になった。
私の心も晴れないまま 一緒に梅雨入りしてしまっている。
『……はぁ』
って思わず、溜息。
…“五月病”なんて適当な言葉で、このモヤモヤを片付けられなくなってしまったのが、しんどくて。この得体のしれない無気力さや焦燥感から目を背けることが出来ず、じわじわと心が蝕まれる。
ぐらり、と心が闇に傾いたとき。
ベッドサイドの小さなテーブルに放置してあったスマホが震えた。
『誰…?』
画面には愛しい人の名前が。
……思わずドキッとした。
弱ってるのを、見透かされてそうで。
何も言ってないけど聡明な彼ならあり得そう。
かかってきた電話に出られないまま、不在着信の通知に変わって……ほっとしたのもつかの間。ピンポンと家のチャイムが鳴る。
『ひっ』
「A?……居るんでしょ 出てきなさ〜い」
『……留守でーす』
「留守だったらうんともすんとも言わないよ」
『確かに』
「居るじゃん!」
「こら!」と怒ったフリをする祥彰をインターホン越しに見て、いつもと変わらない様子にひどく安心した。
『開けるね』
「うん」
そう告げて鍵を開けると、私がドアを押すよりも先に開かれてするりと彼が玄関に滑り込んできた。
「久しぶりだね」
「そうだね」って返すつもりが、祥彰の優しい笑顔にぎゅっと胸を掴まれて言葉が出ない。…心配かけたくないから、早く返事をしないといけないのに。
「…A?」
『っ、』
覗き込んできた彼の瞳が、私の不安をとらえる。
逃げようとした私の手首をぱっと掴んで引っ張られた。
「ちょっと、出掛けようか」
雨の日じゃなくても珍しい、彼からのお誘いに思わずこくんと首を縦に振った。
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「1時間後にまた来るから用意して?」と言われて、彼が多忙を極めてることを思い出した。
彼が出て行った扉を見て、なんで後先考えず首を縦に振ってしまったんだろうと後悔が押し寄せる。
なんて、不甲斐ないんだろう。
彼が落ち込んでいるのなんて見たことがないのに、私は波のようにゆらゆらと気分が上下する。ずっと不安定でどうしようもない。
――彼につり合ってないんじゃないか。
なんて考えたらもっと落ち込みそうで急いで顔を洗った。
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作者名:遊馬 | 作成日時:2020年6月13日 21時