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hand cream fkr ページ12

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『……あつうい』
「…おかえり。」
『ただいまー…っ』
「顔真っ赤。今日は暑くなるって言ったじゃん。」


 玄関にどさりと荷物を置くと、リビングのソファーから声が聞こえる。顔を上げるとぐでーっと寝転んだ彼が視線だけをこっちに寄越したのが見えた。


 拳くんは間違ってない、ってわかってるけど腹が立つ…!

 だってずっとあの体勢でダラダラ過ごしてるし…。


『じゃあ一緒に行ってくれてもいいじゃん買い物!』
「俺は夜に行こうって言った」
『折角ならショッピングモールとか行きたい』
「日が暮れてからでもいいじゃん。駄目なの?」
『うぐ……』
「ふっ」


 すぐに言葉に詰まる私、得意げな彼。

 いつまで経っても口喧嘩じゃ敵わないってことを知っていながらつい言い合いをしてしまう。喧嘩するほど仲がいいの、――多分ね。(笑)


「ほら早くこっちおいで。涼しいよ」


 そう言っていつの間にか目の前まで来て荷物を掻っ攫っていった、器用なのに不器用な拳くん。肝心なところで言葉が足りないの。


 なんだかその姿にピンときて、“拳くんってハンドクリームみたい!”と口に出していた。


「……え、何?」
『あ、いや、今は夏だから日傘かなあ…?』
「何の話なの(笑)」


『なくても困らないけど、私にとっては絶対必要なものだから。』


 いつまで経っても勝てない口喧嘩も、不器用な優しさも、行動で甘やかしてくれるところも。なぁんて。

 口に出してからはたと気付く。ニヤニヤと彼の口元が三日月のように綺麗に弧を描いていることに。


 …もしかしてだけどめちゃくちゃ恥ずかしいこと言ってない?私!




「へー…俺がそんなに必要なんだ?」




 ほら。

 嬉しそうな表情の奥に、意地悪なカオ。


 いつまでも敵わない。


『……うん、必要。』


 口に出してしまったから もう巻き戻せない。…そう考えると認めるしかなくて。


 こくりと頷くと彼は面食らったみたいにポカンと口を開けて、“恥ずかしいやつ……”と赤らむ顔を隠すように外を向いた。




 そうやって恥ずかしがる姿も、――私にはなくてはならない夏の一瞬。




.
hand cream
[ハンドクリーム]

―― もうこの手になくてはならないもの

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作者名:遊馬 | 作成日時:2020年6月13日 21時

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