お揃いをもらうまで

一途な気分屋 ページ33

Aちゃんは気分屋である
っていうことは、多分みんな知っている

けど、そんな人達でもたまにAちゃんの気分が分からないことがある

現に今僕の隣でソファーの背に凭れかかりスマホを弄っているが、
僕との距離が異様に近い

「山本くんは癒し」なんてよく本人に言われるし周知されているから、横にいることに違和感を覚えるなんてことはない

ただなんとなく、いつもと雰囲気が違うのだ


まぁ僕はAちゃんにドキドキなんてしないからこのままでもいいのだけど、周りの目が鋭いし特に川上さんなんて既にトリガーに手をかけている


「Aちゃん」

「ん？」


反応はいつも通り


「今日なんかあった？」

「いや、なにもないけど」


この言葉に嘘はないと思う


「A、この記事確認して欲しいんだけど」

「後でやります」


伊沢さんの作戦は失敗に終わった
これが川上さんなら反応は別だったのかな

てかこれ川上さんが一言声かければ終わるんじゃないか？
僕に攻撃する前に自分でなんとかしてほしいよまったく


「川上さん、ずっとこっち見てるよ」


川上さん、という言葉に微かに反応するのが分かった

…なんとなく読めたかな

恐らくだけど、自分の中で川上さん離れを試みてるのではないだろうか
その経緯は予想がつかないけど、川上さんを意識しないように意識してる気がする

あくまで同い年の勘だけど


「あ、川上さん足組んでる」

「川上さん今日紅茶飲んでるよ、珍しいね」

「考え事してるのかな、眉間にしわ寄りそう」


「ねぇ、何で川上さんのことばっか言ってるの」

「なんでも？」


多分僕の勘は当たったかな
少しだけ僕との距離をあけてスマホを膝の上に置いた


「小悪魔な山本くんは苦手」

「僕は気分屋なAちゃん好きだけどな」

「気分屋なんかじゃないよ。私は一途なんだから」


周りのみんなには聞こえない小さな声で会話する


「こういうのって、山本くんだけなんだよね」


“こういうの”の意味は僕には分かる


「スイッチ切り替えれそう？」

「だいぶ休憩もらったから」

「そっか、よかった」


きっと、疲れただけなんだね
気分屋なんて言ってごめんね？



「川上さーん！！！」

「もう、だからって横で叫ばないでよ(笑)」

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