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雨上がりの、夜の中にいて。
その匂いに、泣きたくなる。
遠慮がちに握った手も、
斜め後ろから見える顔も。
知ってるのに、知らない人みたいで。
言葉が、上手く出てこない。
エントランスを通り、エレベーターの前で。
「行かない」
言わなきゃと思いながら、言えなかった言葉が。やっと出てきた。
『……、』
彼が持ったままの傘を、雨粒が伝うのを。
彼の言葉を待つ間、黙って見ていた。
そっと手を離すと、
『っだよね(笑)』
いつもみたいに、へらっと笑って。
『あ、傘。ありがとね。じゃあ、おやすみ。』
静かにエレベーターに乗ると、俯いたまま。
ダルそうに手を上げた。
・
・
・
あれだけ来てたコンビニにも、気を抜いた頃に突然やって来るお店にも。
深澤くんが、来なくなった。
友達じゃないし、ましてや彼女じゃないから。
会いたいとか、淋しいとか。
そんなコトを口にできるわけもないけど。
金曜日の夕方、画面越しの深澤くんを見ながら。ふと気づいた。
夢が。
醒めたのかもしれない。
そう考えれば、自分を納得させられる。
気の抜けた様な笑い方も、前髪をはらう指も。
黙った時の唇の形も、合うとすぐに逸らす目線も。
私のモノなんかじゃ、ない。
夢の中にいて、それが心地よくて。
もしかすると。
かもしれない。
って。
いつも、どこかで。
勘違いをしてしまっていた。
いつかの。
傘を伝う、雨粒みたいに。
頬を伝う。
夢なんて、みなければよかった。
醒めた時が、こんなにつらいなんて。
知らなかった
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作者名：k | 作成日時：2020年10月18日 17時
