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最寄り駅で電車を待っている間。
高架下からのぞく青空を見上げた。
風をたてて入ってきた電車に、髪をおさえて。
開いたドアからすぐの席に腰を下ろす。
発車のベルとともに入ってきた人が、どさっと隣に腰かけて。
大きな息を吐くと、腕を組んだ。
匂いが。
知っている匂い。な気がする。
なるべく自然に。
出来れば気づかれない様に、目だけ隣に向ける。
(深澤くんだ)
誌面や画面越しに、どのくらい横顔をながめたか。
キャップを深く被っても、マスクをしていても。色眼鏡をつけていても。
だいすきな、目の形を。
見間違うわけがない。
眠っているワケではないのか、組んでいる腕や足を時々組み変える。
ふと。
斜め前からの視線に気づく。
もちろんそれは、深澤くんに向いているんだけど。
ひそひそと話しながら、深澤くんに視線を送る様から。
彼に気づいたファンの人だと。類だから解る。
(お兄さん。気づかれてますけど)
なんとなく隣に目をやると。
当の本人は、気にしない風で携帯をいじっている。
次が降りる駅だけど。
彼はどこまで行くんだろう。
車内にアナウンスが流れると、彼が顔を上げた。
『あ。』
電車がホームに止まる間の、ほんの数秒。
俯いたまま、
「気づかれてますよ、」
できるだけ、小さな声で言った。
なんとなく、彼の後についてホームに降りると、やっぱりさっきの人に声をかけられた。
『ありがとうございます。でもごめんなさい。今オフなんですよ(笑)』
とか言ってるのを横目に通りすぎる。
なんか。
もやもやする。
皆の深澤くんなのに。
もやもやして仕方ないんだよ。
「はぁぁぁぁぁあ、」
さっき見上げた空に向かって、大きく息を吐く。
ポケットの携帯が震えて、取り出して耳にあてる。
周りの音に、遮られないように。ぎゅっと。
『どこ行くの。』
「別に、」
絶対に振り向かないし、並んで歩いたりしない。
『あのさ、』
「うん、」
『元気だった？』
「………、」
何それ。
『あー……何かごめん。
や何かさ、しばらく会ってなかったから。』
「元気です」
『うん。ならいいや。』
赤信号で、立ち止まる。
同じ様に、隣に立った彼が。
『じゃあ。またね。』
いつもの。
魔法の言葉をくれた
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作者名：k | 作成日時：2020年10月18日 17時
