−３.過去話 ページ4
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「酷いですわ、A」
そのイザベラの一言で、お父様とお母様の視線が一瞬で此方に向く。
勿論、私に身に覚えは全くない。
さっきまで図書室にいたのだ。
しかし、図書室にいたのは私一人でそれを証明できる者などいなかった。さっきの使用人も手紙を渡してから今まで少し時間が経ってしまっているため証人にはできない。完全に不利な状況だった。
「お前がやったのか？！お前がイザベラを傷つけたのかぁぁぁ？！！」
『いえ、私ではありません！！私はずっと図書室におりました。証明はできませんが確かにそうなのです』
「じゃあ…これはどう説明するのよ……」
泣き崩れて、膝を床につけて座り込んでいたお母様が指でつまみ上げたのは一本の長い金髪だった。
してやられた。
この家には金髪の使用人は存在しない。
金髪をもつのはただ一人、自分だけだ。
だから此処に金の髪の毛が落ちていれば、それは間違いなく私のものということになる。
散乱した黒髪の中に落ちている一本だけの金髪は目立つ。
視線を低くすれば見つけるのも簡単だったのだろう。
こうして私はお嬢様傷害事件の犯人に確定されてしまったのだった。
その後はイザベラがあることないことお父様達に吹き込み、私は【公爵家お嬢様であるイザベラを陥れようとした罪人】というレッテルを貼られ、少しずつ詰めていたお父様やお母様との距離も一気に離された。
今ではお父様お母様と呼ぶことすら禁止され、旦那様奥様と呼んでいる。
まるで使用人だ。
お嬢様と接することは基本的に禁じられ、会う場合は必ず使用人同伴にするなど、一気に私の地位はこの屋敷で最低になったのだ。
それから私は逆にイザベラに暴力を受けることになったが、「お前が先にやったのだから」と何もしてもらえなかった。
この時の私は何故数々の暴力を乗り越えられたかというと、それは本の力だった。
現実逃避することができること、
一人になれること、
不幸の後には必ず幸せになれると信じられたこと。
今思うと一番最後の理由は相当痛い気もするが、私はこの三つを兼ね備える本という存在のおかげで耐えぬくことができた。
今でも本は大好きだし、毎日図書室に入り浸っている。
最近は頻度が低くなってしまったが、月一回ほどのお兄様からの手紙も絶えることなく続いている。
お兄様、私もうすぐ十五歳になります。
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作者名：うさぎ大福餅 | 作成日時：2021年5月9日 19時
