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あの後、俺は一突きに刺し殺して刀に付着した血飛沫を振り落とし鞘の中へと収めた。鉄のような匂いが辺りに充満している。その悪臭のせいなのか冷静に一思いに殺すことが出来た。
…千里。
「人を殺めたか、山神」
後方から聞こえてきたのは渋くて低い声。振り向けば忽然と千里の近くに黒い霧が現れていた。人の姿形も無い、ただただ靄のようなものが千里の近くに佇んでいるだけだった。
「この子供も息遣いが浅くなってきておる。このままでは確実に死に至る」
「千里に無闇矢鱈に近づくな」
「まぁ落ち着け山神よ。私は提案を持ちかけに来ただけだ」
容姿も見えない奴に何を言われても怪しいだけだった。俺は千里から奴を離そうと刀をもう一度握った。
「この子供の命を助けたくはないか?」
しかしその言葉によって俺はピタリと動きを止めた。
千里が助かる、その言葉に対してその時の俺は弱くて耳を傾けて話を聞いた。
「命を満足に生かすことも出来ないまま息を引き取るとはあまりにも哀れなり。しかし私だったらこの子供の命一つを救うことなど容易い事だ」
「…だったら」
「しかし、人間として生かすのではなく妖怪として新たな命に生まれ変わらせる。生憎私が今持ち合わせているのは妖怪としての生気だけだ」
人間として行かすのではなく長い命を持つ妖怪として生きていく。死ぬ時期すら決めることの出来ない妖怪として生まれ変わることに千里は望むのやろうか。
「そして命に代償は付き物。命一つを甦らせるには生命の理を欺くようなものだからな。代償はこの子供に支払ってもらう」
「俺が背負うのは駄目なんか」
「要求はこの子供に対してだ。苦渋なものにはならんから安心せい」
__さぁ、どうする?
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夜紅茶(プロフ) - Naoさん» コメントありがとうございます!そんな前から見ていただいて嬉しいです!気長に続編を待っていただければ幸いです。 (2020年10月4日 19時) (レス) id: 676346443e (このIDを非表示/違反報告)
Nao(プロフ) - この小説が書かれだした頃から見ているのですが夜紅茶さんの言葉選びは凄く人を惹きつけるもので素晴らしいと思います!続き待ってます!楽しみです! (2020年10月4日 18時) (レス) id: b92cb2f456 (このIDを非表示/違反報告)
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