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「まーしい、もう少し速さは上げられるか?」
「分かった」
森の中を駆け抜け、颯爽と社に続く坂道を上っていく。地面を蹴りあげて風よりも早く、ぬかるんだ泥濘の地面に足を取られぬように早く。
(こんなに時が経つとなると…やまだぬきも帰ってこないしな)
坂田も普通なら瞬間移動かと錯覚するほどの速さを持つのだから一瞬でこっちと合流出来るはずなのに、それもやってくる気配はない。
となると、考えられる節は……。
「……っ、まーしぃ!止まれ!」
勢いで足を止めて少しだけ距離をとる。次の瞬間、突如として風上が怪しく吹き始め、竜巻が上がった。俺は両腕で顔の周りを覆い、咄嗟に目を瞑る。
風が吹き荒れる中、薄らと目を眇れば竜巻の中に見える黒い影。暴風並みの風の強さが弱まっていくのと同時にその姿が明らかになっていく。
「おい、あれ…」
まーしぃがその姿を見て思わず言葉を零した。背中から生える漆のような羽根と風と共に舞う赤髪、まさにそれは奴のものだった。
「坂田!」
なんだろうか、この嫌な胸騒ぎは。
紅の髪は靡き顔の表情は下を俯いていた。表情は見えなかったがどうにも普段の様子じゃない為、距離は保ったまま警戒した。
「坂田、そこを退け」
言葉に圧をかけて言い放てば、坂田はゆっくりと顔を上げてこちらへ闘争心に駆られたような鋭く冷ややかな眼光を向けた。
「…やだ」
志麻は俺の発言も坂田の返しも予想外だったのか、目を見開いて固まっているようだけれども、俺は早々に来てしまったかと無意識に舌打ちが出る。
この状況は厄介だ。知り合いと敵対するとなれば尚更手の内も知られている。
「おい坂田、お前だって理解してるんだろ?センラがやろうとしている事の重大さに。それも、狐の嫁入りの中に異の国の人間を介入させてしまえばそれこそセンラに天罰が下される」
「そんなん、分かっとる」
「じゃあなんで」
その言葉を発した瞬間、坂田はセンラの肩を持っていることが嘘なんかじゃないかと思いそうになるくらい、哀しそうにふっと笑った。
「__センラを、もう二度と独りにしたくないから」
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