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「……これはとんでもない傑作やわ」
「傍から心を開いていたように見えていましたかね?」
「そんな素振りではなかった、なんて言いきれないくらいの距離やったけど」
こっちは常習の誘拐犯どころか愉快犯。しかも多くの殺人を行ってきた凶悪な人材でもある。
なのに、対してコイツは…。
「確かにそう言われますと坂田さんの前だけでは気を張らずに接していたような気もしますけど」
ペーペーで曖昧な返答に頭を抱えたくなるレベル。むしろ誘拐に関わっている俺が被害者に振り回されているような感覚だ。
脳天気な無自覚さがここまで響くとなるとは。
「よ、よく分かりませんがすみま」
「謝るな、というかそれ以上口を開くな」
何となく空気を察したのか人間が謝罪を入れようとした瞬間、俺は咄嗟に早口で言葉を挟んだ。
申し訳なく俺に謝られると無駄な気がかりが増えていくだけだ。余計に俺が惨めだと見せしめにさせられるのはごめんやし。
「とにかく、坂田を信じるのは勝手やけど俺はおすすめしない」
「……」
それが腑に落ちないのか、かと言って俺が言っていることも何となく察しているのかなんとも言えないような表情が浮き出ている。
もう少しだけ、牽制をかけてみるか。
「……坂田はある意味、世間体の怪物の中では異端と呼ばれとります」
「異端?」
「怪物らしからぬ怪物。欲がない怪物なんて味もしないお菓子と同じ。志麻くんみたいにほんの些細な欠陥ならまだしも“全て”なんてそんなん怪物から見ても気味が悪くて物騒」
あくまでも俺らは利害の一致で船員として乗船しているわけで、仲間としての意識や統制はなく結び付けられているのはビジネスパートナー程度のものだ。
この薄くハッキリとしない関係だからこそ、俺は自由な発言や行動なんて許可を取らずとも出来る。
「けど、坂田だって当たり前のように心はある。それが変わらないと俺は言いきれない…もしアンタが変えてしまったら、坂田の中にあるどこかの引き金を引いてしまえば可能性はゼロじゃない」
俺に似つかわしくない真面目な発言だと今更気づいたが、それを失態だの間違いだなんて思わなかった。
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