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「…あ、れ?」
次に目を覚ましたのは独特な紙の匂いが漂う書物庫ではなく、ヒノキの香りがほんのりと香るどこかのベッドの上。
身体を起こせばやはり見知らぬ部屋で、けど何故か自分の身体が気を失った時よりも不思議と軽い。
「目、覚めた?」
突然隣から聞こえてきた声にびっくりし、左を向けば簡易的な椅子に座って本に目を向けている坂田さんがいた。
「ここは俺の部屋。どうせ志麻くんとかセンラ辺りが原因やろうけど、貧血起こしてたからとりあえず処置は施しといたよ」
「ありがとう、ございます」
坂田さんは本を閉じて私の頬にそっと手で触れる。その瞬間、近づいた距離に思わず魅了される。
綺麗に伸びた睫毛も、紅玉のようなスカーレットの瞳も、あどけなさを残しながらも整った顔つきだって綺麗の一言だけではまとまりきらない。
「そんなに俺の顔を覗き見て何したん?」
「いえ、綺麗だなって思って…もしかして気持ち悪かったですか?」
「…別にそんなことはないけどさ」
坂田さんは頬から手を外し、こちらをじっと見つめて間をとってから言葉を放つ。
「Aって結構変な部類の人間やな」
「え?」
唐突な発言に対して呆気に取られた。しかも勿体なく溜めて言うものだから余計に力んで構えてしまった。
「内面怯えとるくせに赤の他人の俺を気にかけてきたり、俺の顔を見て綺麗とか言えちゃう人間初めて見たんやけど。気持ち悪いとかやなくて気味が悪い」
「きっ…いや、私って変なんですか?!」
「今まで見てきたどの人間よりもかなり変やで。俺が言うのもなんだけど感覚壊れてない?」
いやそれ人でもない坂田さんに言われてしまえば重症なんですけれども。
それにしても変、なのかな?人にそんなこと言われた覚えはないし一般的に見られればまだ普通だと思うのだけれども。
「ま、その反応は作り物じゃなさそうやな。というかAは嘘をつけるほど器用じゃないだろうし」
「それって褒めてるんですか」
「オブラートに包めば素直、はっきりと言うなら単純」
「うっ…」
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