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「ただどうしても未来だけは見たことがない。見えるのは過去と一時的なその瞬間だけ。_それに色さえ赤以外のものだったら見えないしな」
その発言に私は目先を上げる。するとこちらへとさらに距離を詰めていて、今では目と鼻の先で上から見下している状態だった。
目は見えてるんだよね?けど、なんで。
「色覚異常とかですか?」
「そういう症状的なものとかじゃねぇよ。俺がフランスに住んでた頃にいつの間にかそうなった。ほとんどの視界が灰色になっとる」
志麻さんは私の身につけている服の袖を目の近くへと引き寄せたが「これも正直何色かわからん」と諦めたような笑いを浮かべながら話した。けれども正直私にはよく分からない感覚だ。色が感じ取りにくい、なんて。
「でもあそこにある辞書」
ぱっと私の袖を話して指を刺された方向を見れば、本棚の中に仕舞われた分厚く深みのある、赤色が冊子の英和辞典。「あぁいう赤だけは分かる」と無表情で淡々と話す。
「なんか俺って他の奴らより感覚が鈍いんよ。主に色彩と味覚に関してはなんも感じない。あ、性慾は普通にあるけど」
「最後らへんの発言にはあえて触れませんけれど…それ結構危ないんじゃ?」
「ええねん。一回死んでるし命失ってるから別に危険性とかはない」
「怪物ってそんなもんやろ」とまんざらでもない様子で語りながら、私の方へぐいっと距離を縮めて腕を取った。
掴まれている黒い手袋越しでも異様に冷たくて、かなり強い力でもないのに全身が総毛立つ。
ニヤリと悪人顔を浮かべる志麻さんに私は表情がひきつった。今までのパターンから考えて、これもしかしなくもない。
「そういえば俺、今喉が渇いてんなぁ」
鋭く尖った白い牙、ギラギラしたネプチューンの瞳。壁際まで押し付けられて、到底逃げられないような力で両手首を壁の方へ押し付け、拘束される。
「皮膚の下からも甘い匂いがするし、なに?誘ってんの?」
志麻さんは鎖骨の方へと頭を埋める。鼻で匂いを嗅ぐように大きく吸われれば身体がビクリと跳ねた。
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