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例えば、の話です。



「…あれ、見られちゃった?」



目線を逸らした先、狭い路地裏だとしましょう。たまたま街中で立ち止まってしまい二人の影が見えます。その時はカップルかなにかと勘違いをし、スルーをしようとしますが異様な景色が視界の端にチラつきもう一度視線を戻してしまいました。

一人はコンクリートの床に横たわる白いレースやらリボンやらでガーリーに可愛らしく着飾られた赤ずきんらしきコスプレをした私と同じくらいの女子学生。そしてもう一人こちらに視線を向ける仮想の再現度が高く、私が今年見た仮装の中でも最も綺麗に顔が整った男性。_彼の口の周りに付着した血は偽物だと思いたいくらいリアルなんです。

けど、倒れている彼女が遠目からでもはっきりとわかるくらいぐったりとしていて息をしている様子が見えないんです。



「…凄いですね。本物の__吸血鬼みたいで」



そう、思いたかった。

自分でもわかるくらいのひきつった表情、震える声でなんとかこの状況から避けようと私は必死に言葉を絞り出した。このまま逃げ出してしまいたい、こんな光景を見たいだなんて最初から望んでいない。けど逃げたら殺されてしまうかもしれない。

すると紫色がよく目立つヴァンパイアらしき彼は乾いた音で一歩ずつ近づいてきておぞましさを感じるような笑顔で此方へ笑いかけた。


「いやぁ、そんなら嬉しいなぁ。ありがとうな、褒めてくれて」


目の前に立ち腕を捕まれて強い力で暗闇の中へと引き込まれた途端、物凄く強い異臭と鉄の匂いが鼻についた。彼が離れた場所を見ると血痕_それどころか真っ赤な血溜まりが広がっているのが見えてしまった。

そして私はここではっきりと理解してしまった。



演出にしては行き過ぎているのではないかと。



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作者名:夜紅茶 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年11月2日 21時

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