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最初に出会った時のセンラさんとは真逆だ。あの紳士らしかったセンラさんはとうの昔に消え去った。目の前にいるのはヤンキーのごとく指の間接をポキポキと鳴らしながら目が笑っていない笑みで一歩ずつ近づいている。誰この人。
けれどもさすがにこんな可愛い生き物を見殺しにも行かない。それこそ私のプライドが欠ける。
私はやまだぬきちゃんの前に立って両手を広げた。そして咄嗟に彼を止めようと言葉を探しながらも発した。
「す、ストップストップ!やめてください!」
「あ¨?」
「いや、だからあの…」
い、威圧が怖い、らしからぬ声出してるじゃん!現代にこの人放ったらダメだ。人殺し連発しそう。
私はその態度に内心ビビりながらも何とか震える声で言葉をかけた。
「そ、そんなことしてると動物愛護団体に訴えられますよ!?良いんですか!!」
「…は?」
するとピタリと彼の動きが止まった。え、私なにかやらかした?
「…アンタ、もしかしてこのクソ狸を本物だと思ってるですか?」
「ち、違うんですか?」
「アホか!普通の狸が流暢に字を書いたりジェスチャーで物事を伝えようとするわけないやろ!!」
「ひぃ!」
どうやら怒りの風向きは私の方へと移ったらしい。やまだぬきちゃんのことを守れたのは何とか良かったものの今度は鬼のような形相で語っているセンラさんを何とかしなければ無さそうだ。
怪物への対処法なんて私どうすればいいか…。
「とにかくそこの狸が本物じゃないことを分かったんならそこをさっさと退いて下さい」
そして力強くセンラさんに肩を無理やり押されてその場を退かされた。よろけて私は何とか椅子につかまったがやまだぬきちゃんの方を見ると手を出しそうになっている彼の姿。
やまだぬきちゃんは状況把握をしていないのか首を傾げてきょとんとしている。見捨てられるわけが無い。
「ダメ!」
私はもう一度止めようと咄嗟に後ろから自分の両腕をセンラさんの腰辺りに回して後方へやまだぬきちゃんから距離を取ろうと引っ張った。
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