金魚鉢。 (ページ31)

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裕くんとばいばいして、

ジミンさんに好きだと言われて、

「...なんか、怒涛の一日だったな。」

ぼんやりする頭の中で、
大きな２つの事実だけがループする。

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それからと言うもの、

『……り、……ぎり、朝霧！！！』
「あっ、はい…？」

『どうしたんだ朝霧～？具合でも悪いんか？』
「..いえ。
もう少しでお別れだと思うと寂しくて。」

相変わらず、思ってもない事を
口にすることは自然と出来るのに、

なんだか仕事に身が入らないし...

触れられる事が
キモチワルイ...なんて思ってしまって
苦痛でしかない毎日。

それは、“夢から覚めた気分”

なんてよく耳にする感覚とはまた少し違って、

例えるなら、そう...

麻酔が切れてしまったみたいな、

そんな鈍く、不快な感覚。

それでも何とか持ち堪えて仕事をこなす毎日。

あと少し、あと少し...

残り1ヶ月になると、店長から頼まれて
馴染みのお客の元へ最後の挨拶回りも
かねて、ほとんど話したことのない
新人の“吉乃(よしの)”と言う女の子を
連れて行った。

こんなことをするのは稀だから、
きっとこの女の子は店から稼げると
期待されているんだろう。

身の上話を聞けば、
この“吉乃”は、幼い頃に母親と死別し
中学の頃に多額の借金だけを残して
蒸発した父のせいで学生の頃から違法だと
分かっていながら援助を求める生活を
していたそうで、そんな時にオーナーに
拾われたんだとか。

このご時世に親の為なんて、
嘘か誠かなんて分からないけれど
その何かを得る為、何かを諦めた
ような瞳がなんだか私と重なって見えた。

『姉さん、私に名前を付けて下さい♪』
「え？吉乃って名前で良いじゃない。」

『えー、姉さんお願い～！姉さんに名前付けて貰えたら、なんか売れそうなんだもん♪』

なんて懐っこく笑う彼女が可愛いくて、

「だったら私の名前をあげるよ。これはね、とあるご隠居の奥様から授かった名前なの。

それをお前にやろう。
私が辞めた後は“朝霧”と名乗るといい。」

そう言ってやると、
吉乃はニコニコと喜んでくれた。

そして、ついにこの世界での私、

“朝霧”が終わる最期の日。

事務所でお給料の精算を終えた私は、

店長から一通の封筒を渡され

『朝霧さん、お疲れ様でした！』
「はい、今までお世話になりました。」

あっけなく幕を閉じた。