金魚鉢。 (ページ1)

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ＰＭ:１９:００

「おはようございまーす。」
『おはようございます朝霧さん、本日も完売でございます！♪』

私を“アサギリさん”と呼び、
嬉しそうに明るく笑うのは、私が働く
職場のマネージャー。

お店の名前？、そんなものは存在しない。
いや、あり過ぎてどれが本物か分からないと言った方が正しい。

時に焼き肉屋、時にダイニングバー、
なんちゃら株式会社、スポーツ用品店、

お客様に合わせた領収書を作成する為、その時々によって名前は変わる。

ただ、この店を使う人間に
汗水垂らして小銭を稼ぐサラリーマンも、
中小企業の中途半端なレベルの社長も、
存在しない。

存在するのは、
芸能界と呼ばれる煌びやかな世界に
身を置く殿方、
政財界と呼ばれるお堅い世界に生きる殿方、
その２種類の人間。

だから、ネットで検索すれば簡単に出てくるような、そんじょそこらの求人サイトに掲載されることもないし、

新人割引、雨の日割引、団体割引、、
そんなチンケな割引サービスをする事もない。

『じゃあ、さっそく下に車来てるから♪』

そんな言葉と共に、１枚の紙を渡される。

○○ホテル
ご予約者様:鈴木様
本指名:朝霧

「いってきまーす。」
『はーい！インアウトコールお願いしますねー♪』

爽やかな笑顔で見送るマネージャー。

この世界は不思議だ。

これから体を弄ばれに行くと言うのに、あんな笑顔で見送られ、

そして、

自身も心の内では、
愛する人としか..なんて淡い事を思うのに、

『おー！朝霧、待っていたよ入りなさい。』

にへら顔でだらしなく笑う、クソジジイに

「最近お呼び頂けないから、浮気でもしてるのかと思って寂しかったです鈴木様。」

『そうかそうか、寂しかったかぁ～！』

なんて、自然に身に付いた手練手管を使って

すり寄っていけるのだから。

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「それじゃあ、また呼んで下さいね。」
『あぁ、もちろんだとも。』

「嬉しい、きっとですよ？」
『約束するよ。』

そんな事を繰り返して一晩で稼いだお金は、

￥450,000─

「お疲れ様でした。」
『はーい、明日もよろしくお願いしますね。』

客は口を揃えて言う、

お前は、“高級な女”だと─────…

朝焼けが眩しい仕事終わり、

ショウウィンドウに反射した自身を見て

私は言う、

「...安い女。」