褪色する春＿skab

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「阿部ちゃんこれ食べて。」
「いやちょっと待って、」


勝手に始まった。
しかも何、あーんなの？


「やだそれ絶対ラムネ。」
「んはは、観念しろ。」
「うわ最悪。」


迫り来るラムネ入りたこ焼き。
いやたこは入ってないけど。
ラムネ焼き？


「絶対美味しくない。」
「大丈夫大丈夫。」


何を根拠に。


「はい、お口開けて。」


うう、もう仕方ない。
諦めてそろりと薄く口を開ける。
それを許可と捉えた佐久間が


「あーん。」


と言ってたこ焼きを咥えさせてきた。


「ん、」


熱々のそれを丸々一個口内に収めるのは至難の技で、もごもご。


「う、」


ガリ？
カリ？
とにかくそんな感じで姿を表したラムネ。
全然生地と味が合わない。


「最悪…。」
「んははっ、可愛い顔がめちゃくちゃ怖くなってる。」


怖いって言われた…。
佐久間のせいなのに。


「次俺が選んだの食べろよ。」


思わず声が低くなる。


「どれでも来い！」


佐久間は言い出しっぺなだけあってノリノリだった。


「はい。」
「せめてあーん付けて。」
「はいあーん。」
「雑！」


んははっ、と笑いながらパクリと佐久間が食べた。
多分チョコレート。


「あ、まあまあイケる。」
「絶対嘘。」
「いやまじまじ。
食べてみ。」


は？
何どさくさに紛れて二回目食べさせようとしてんの。


「やだって。」
「まじ大丈夫だって。」
「全然信用でき、んぅ、」


半ば強引に入れられた。


「…まっず。」
「んははっ、やっぱダメかぁ！」
「やっぱって何、やっぱって！」


あー、口の中最悪！
そんなこんなで結局ああだこうだ言い合い、三往復くらい食べさせ合った。
…って言うか今更だけど何これ？
バカップルか何か？
でも、そんなこと意識して考えてんの、俺だけなんだよね。



全部食べたら並んで洗い物。
佐久間が洗って俺が拭く係。


「思ったんだけどさ。」
「うん。」
「阿部ちゃん専用の箸とか買う？」
「え。」


何それ、どういうこと。


「あと服もいくつか今度持ってきて置いたら？」
「そんな、」
「だってこれからも遊びに来るっしょ？」
「う、ん。
お邪魔でなければ。」
「こんなに一緒にいて邪魔も何も無いじゃん。」


変な阿部ちゃん、と言って佐久間はまたんははと呑気に笑っているけど。
俺はそんな当たり前みたいに佐久間の生活に溶け込ませてもらえて、またドキドキしちゃってるんだよ。
一体どこまで、好きにさせるつもり。

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