三十話 ページ31
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無一郎 Side
「A! やったね! 倒したよ!」
僕は嬉しさのあまりAの背に飛びついた。すると、Aはがくりと倒れた。
「A!? どうしたの?」
慌てて抱えると、Aは泣いている。
「無一郎くん、私ね、血鬼術、吸っちゃった、みたい……」
「……そんな! 僕をかばって!」
「でもね、いいの、私、もう、消える……」
Aは力なく僕の手を握る。ああ、僕は大切な人を守れなかったのか。それどころか、守られてしまった。
「いやだ、いやだよA! 消えないで!」
Aの体はキラキラと粉のように散り始める。
「A! A! 置いていかないで! 僕を一人にしないで!」
そんな僕の気持ちは届くはずもなく、Aの体は胸まで散った。大粒の涙がぼたぼたとこぼれて、Aの顔が見えない。
「A! やだよ!」
「無一郎くん……」
Aはそっと僕の首に腕を回した。そして、触れたのかさえわからない、短く、儚い、キスをした。
「A。僕、Aに好きって言えなかったよ……?」
散ってしまった君は、ふわふわと舞い上がっていく。つられて見上げたその空は、深い、深い、留紺色だった。
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作者名:Rabbita | 作成日時:2020年5月9日 14時