二十九話 ページ30
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無一郎 Side
まずい。息が苦しくなってきた。血鬼術は俺の周りに充満しているから息を吸えばひとたまりもない。しかし、頸はあと半分斬らなければいけない。一旦戻って体制を整えるべきか。もう少し踏ん張るべきか。それとも、息を吸って最後のひと押しをするべきか。意識が朦朧としてきた。息を吸わなければもう無理だ。頸はあと三分の一。
「くそっ……!」
俺は息を大きく吸った。が、吸った空気は澄んでいて苦しくない。おそるおそる目を開けると、そこにはAがいた。
「遅くなってごめん無一郎くん! 最後の切り札、まだ使ってないでしょ?」
「……!」
ほほえんだAの言葉が僕を奮い立たせた。こんなところで死ねるか!
〈霞の呼吸・漆ノ型 朧〉
〈宇宙の呼吸・零ノ型 無〉
Aは姿や気配、音、その全てを消し、俺は残像を残しながら鬼の周りを移動する。鬼は明らかに混乱していた。
(女は消えて全く気配がない。男は見えるのにそれは全て残像だ……あっ!)
俺たちは同じタイミングで姿を現し、交差するように鬼の頸を斬った。
ボトッ
鬼は未だに状況が掴めていないらしい。それはそうだ。この二つの型はそれぞれ、僕たちが作り出した型なのだから。鬼はぱらぱらと塵になった。
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作者名:Rabbita | 作成日時:2020年5月9日 14時