二十話 ページ21
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無一郎 Side
「鬼ガ出タワ! 急行シテ! 村ガ危ナイ!」
しかし、幸せな時間は長くは続かない。非番とは言えど、このような緊急任務はよくあるのだ。銀子からの指令を聞き、僕は刀を握って玄関に向かう。
「待って無一郎くん、私も行く!」
Aが縁側に座ったまま僕の隊服の袖を掴んだ。だめだ。Aは来ちゃいけない。鬼を斬るのは僕の仕事だ。俺は心を鬼にしてAの手を払い、再び玄関へ向かう。
「無一郎くん待って! なんで戦わせてくれないの? 私、無一郎くんの力になりたいの!」
「だめ。ここで待ってて」
僕だって、Aと一緒にいたい気持ちは山々だ。でもだめなんだよ。お願い、わかって。
「どうして? さっきの稽古でわかったでしょ? 私だって柱だもん、それなりの実力はあるよ。……信頼できない?」
「いや、そういうんじゃなくて──」
「じゃあなんでよ! 私無一郎くんが好きなの! 死んでほしくないの! 一緒に戦って、助けたいの!」
Aは駄々をこねる子供みたいに泣きながら叫んだ。
えっ、待って。……Aは、僕のことが好き? そんな。まさか両想いだなんて思ってなかった。僕はびっくりして、迷って、でもAの涙で濡れた真っ赤な顔を見て、意を決した。
「僕もAのこと──」
「急イデ! 日ガ沈ンダ!」
ああもう、あと少しだったのに! 僕はモヤモヤしたままAに言った。
「……わかった。A、一緒に行こう」
「いいの!? 私、絶対絶対絶っっっ対無一郎くんの力になる!」
「よろしく」
「うん!」
Aは涙を弾くほどの満面の笑みを見せ、力強く頷いた。
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作者名:Rabbita | 作成日時:2020年5月9日 14時