十九話 ページ20
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無一郎 Side
「あー、疲れたー!」
「Aの動き速い! 反射神経半端じゃないよ……」
「無一郎くんこそ、何あの木刀! 本当に同じもの? 超絶集中してないと捉えるのは全部残像! 目がよくてよかったよほんとに……」
Aとの打ち合いは互角だった。どちらかが相手の首に木刀を当てたら終わりというルールなのだが、なかなか決着がつかない。最後はAが力尽きて倒れ、僕もからぶって倒れ、ふと合った目にくすぐったくなって大爆笑だった。
それからはお互いに気になったところを指摘しあい、よりよい動きを目指した。気づくともう夕方になっていて、型を使った稽古はまた今度にしようということになったんだ。
今はさっき握ってあったおにぎりを縁側で食べて、他愛のない話をしている。Aの家族や学校について聞くと、たった百年で日本はそんなに変わってしまうのかと驚いた。そして、ずっとこんな日々が続けばいいのにと思った。
「ねえ、しのぶさんに聞いたでしょ? この血鬼術、どれくらいで消えるの?」
ふと気になって聞いてみる。
「一週間くらいだってさ。今日が六日目だから……えっ!? 明日で一週間!? えー、私まだやりたいこといろいろあるよ! まず町にお買い物いきたいでしょ? おいしいもの食べたいでしょ? 甘味処っていうのかな、赤いやつに座ってお団子食べたいなあ。あっ、下駄はいてみたい! それから人間観察とかもおもしろそう。あとは、うーんと、えーと……」
Aがやりたいことはどれも普通のことだった。やっぱり、鬼なんかいなきゃAも刀なんて握らずに平和に暮らせていたのかもしれない。
いや待て、この時代で鬼舞辻を倒せば未来を生きるAは鬼殺隊に入らずに済むのか?ということは、僕はAを守ることかできるのか。……Aにケガしてほしくない。刀なんて持ってほしくない。改めて見たその横顔は、夕焼けに照らされてやけに赤く、赤く、美しく、輝いていた。
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作者名:Rabbita | 作成日時:2020年5月9日 14時