十二話 ページ13
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無一郎 Side
「次ハ北ヨ!」
「うん」
はあ、どうしたものか。ちょっとでもぼーっとすると、頭にあの子の顔が浮かんでくる。なんで? 他人なんて、ましてや血鬼術が消えればいなくなる人なんて、どうでもよくない?
ほら、まただ。今は任務中。集中しないと危ない。僕は銀子の案内に従って無心に走った。
「今日ハ終了! 帰リマショウ!」
「わかった」
今日はいつもより少なめの三匹ほどを斬り、僕は帰路についた。さすがに夜の住宅街は人通りがない。早く帰って寝よう。そう思ったとき、ふと歩みが止まった。あの子だ。深い紺色の袴をはいた女の子。塀にもたれかかってしゃがんでいる。
いや、俺には関係ないはず。でも少し声をかけてみたい。ううん、気のせいだ。そうやってどうしようか迷っていると、その子はこちらに気づいた。月明かりに照らされたその目には、涙が溜まっている。安心したようにほほえんだ彼女に、なぜか興味が湧いた。
「こんなところで何してるの?」
「あのね、昨日はケガして蝶屋敷に泊めてもらったんだけど、今日は泊まるところ決めてなくて……。宿に泊まるにもお金ないし、どうしようかなって」
「蝶屋敷にまた泊めてもらえばいいじゃん」
「そう思ったんだけどね。恥ずかしい話、道に迷っちゃって……。こっ、こんなこと無一郎くんに話してもしょうがないよね! 私も柱なんだし、一日くらい寝なくても大丈夫! うん! なんかごめんね、任務帰り? お疲れ様! じゃあね!」
焦って立ち去ろうとする彼女の手首を掴んだのは咄嗟で、自分でも驚いた。彼女もびくっと肩を上げて振り向く。
「無一郎くん?」
掴んだ手首は柱とは思えないくらい白くて細かった。ああ、この子もごく普通の女の子なんだな。放っておけない。守りたいとさえ思った。
「……僕の屋敷に泊まったら?」
「えっ、いいの!?」
彼女はまさかそんなことを言われるなんて世にも思っていなかったらしく、驚きつつも目を輝かせて僕を見つめた。
「だって泊まるところないんでしょ? ここからなら蝶屋敷より僕の屋敷の方が近いし」
「ありがとう! 嬉しい!」
彼女のまぶしい笑顔に、初めて袴姿を見た時と同じような胸の高鳴りを覚える。思わず顔がほころびそうになったのを隠そうとして、僕はそそくさと屋敷へ歩き始めた。
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作者名:Rabbita | 作成日時:2020年5月9日 14時