それでも俺達は幸せだった�� ページ9
家に帰って部屋に上がるも、智からの「おかえり」というお出迎えはなかった。
テーブルの方へ目を向けると、さっきまで散乱していた画材道具達はキレイに片付いていた。
部屋に投げ捨てられた失敗作のグシャグシャの紙も、無くなっている。
肝心の智は。
背を向けて、布団に包まって寝ていた。
和「さとし」
名前を呼んでも、返事はなかった。
和「…ただいま」
それでも、返事は返ってこなかった。
完全に寝ているのか。
いや。
寝息は聞こえてこないから、多分寝たフリだな。
まだ怒っているのか。
というよりも、これは完全に不貞腐れモードに入っている。
智は普段あまりカッと怒らない分、不貞腐れるとかなり面倒なタイプ。
とにかく、回復するまでに時間が掛かる。
これはもう、今日中に仲直りは無理だなと悟った俺は、諦めてシャワーを浴びに行った。
浴び終わって出てきた後も、智の様子は変わらず。
いつものようなイビキも聞こえてこない。
まだ寝たフリかよ…
キレイに片付けられたテーブル。
そのすぐ近くの壁に、キャンバスが立て掛けられていた。
俺のせいで歪んでしまったキャンバス。
きっと智は、コレに絵を描くのを楽しみにしていたんだろうな。
大事に大事にしていたのだろう。
それを、俺が傷付けてしまったから…
ごめんね。
智。
なんて言葉は言えずに、ただ黙って電気を消して、俺に背を向ける智の隣に潜り込んだ。
後ろから抱きしめることもしないで。
俺も智に背を向けた。
隣に居るのに。
こんなに近くにいるのに。
顔を合わせないのは。
やっぱり寂しかった。
だから、俺も不貞腐れることにした。
なにさ、なにさ。
どうせ俺は、心が狭いさ。
平凡な給料の平凡な会社員で。
金だって無いさ。
家だって古いし狭いし汚いし。
子供だって作れないさ。
どうせもう、マンネリだよ。
俺の人生、こんなんでいいのかな…
ああ。
金が欲しい。
綺麗な広い家が欲しい。
刺激が欲しい。
ああ。
幸せになりてぇよ！
心の中でそう叫んで、布団の中に潜った。
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2018年8月8日 16時
