それでも俺達は幸せだった�� ページ7
小さな喧嘩の多い俺達でも、救いはすぐに仲直り出来たこと。
お互いに「ごめんね」なんて言わなくても、気付けばいつも通りの俺らに戻っている。
だから、この日の夜だって、牛丼を食べ終わる頃には、普通に智に会社での愚痴を吐いていたんだ。
だけど。
あの日の智は違った。
小さな喧嘩を繰り返しながらも、離れずに一緒に過ごしていた俺達に、突然訪れた嵐。
その日は土曜日で、俺は友達と飲みに出掛けていた。
その時の友達の話が、俺を精神的に不安定にさせたんだ。
一緒に飲んでいた友達3人のうち、一人は事業を立ち上げ大成功をし、裕福な生活を送っていた。
他の一人は、女と結婚し、子供も生まれ、お金に余裕は無くとも『家族』という大切な宝物を手に入れ、幸せそうに暮らしている。
そして、あとの一人は、俺と同じ平凡な会社員だが、今現在付き合っている男が同じ会社の社長で、ドキドキの社内恋愛に充実した毎日を送っているそうだ。
どれもこれも、俺には無いものばかり。
金も、家族も、ドキドキ感も。
一応、一緒に暮らしている恋人がいるけども。
平凡な給料の平凡な会社員の俺に、貯金なんてほとんど無い。
俺の両親は、数年前に離婚し、父親は音信不通、母親は既に他界している。
だから、家族はいないも同然。
付き合って2年以上になる俺達に、ドキドキ感なんて、とっくの昔に消え去った。
男同士だから、子供はできないし。
そう思った途端、段々自分の人生が虚しく思えた。
友達と別れ、トボトボと歩いて帰ってきた家。
オンボロアパートの古いドアを開けた途端、広がってきた光景は。
鉛筆やら消しゴムのカスやら画用紙やら絵の具やらが散乱した、ウンザリするほど汚い部屋だった。
その汚い部屋の中で、智は失敗した画用紙をぐしゃぐしゃと丸めて、ポイと投げ捨てた。
丸まったそれは、壁に立て掛けてある俺のアコースティックギターに当たった。
それを見た瞬間、俺の中の不満が一気に爆発した。
智「おかえりぃ」
和「…おい。いい加減にしろよ」
智「なにが？」
和「いつもいつも部屋を散らかしやがって！つーかお前さ、いつまでフリーターでいる気なんだよ！いい歳した男が、低時給のバイトしかしないで家にいるせいで、無駄に食費と光熱費が掛かるわ、家賃は8:2でほとんど俺が払ってるわで、自分の欲しい楽器も買えねぇんだわ！！」
そう言って、何も書いていないキャンバスを手に取った。
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2018年8月8日 16時
