それでも俺達は幸せだった�� ページ6
和「おい」
立ったまま声をかけてみたが、何の反応もない。
和「おい、さとし」
今度は足で、智の縮こまった膝をちょんちょんと蹴りながら声をかけた。
すると智が、「ん〜」と唸りながら薄っすらと目を開けた。
智「あ…カズ、おかえりぃ」
和「ただいま。飯は？」
智「ごめん、眠かったから作ってないし、何も買ってないや」
寝惚けた顔をして目をこする姿が、妙に腹立たしかった。
和「今日、外出てないの？」
智「出たよ」
和「じゃあ、何かしら買ってこれただろうよ」
智「めんどくさくて」
ケロっと言う智の言葉に、俺の脳血管がピキッと音を立てた。
会社から持ち帰ってきた苛立ちと相まって、チッと舌打ちをした。
智「舌打ちすんなよ」
和「すーげぇ、イラッときたもんでね」
智「飯くらいでイラッとするなんて、心が狭いよ」
和「悪いけど、誰かさんと違って今日働いてきたんで、すげぇ疲れてるんスよぉ。腹も減ってるし。会社で嫌なことあって、腹も立ってるしね」
智「なに？何かあったの？」
急に真顔で聞いてくる智の様子が、余計に俺をイラつかせた。
和「いいよ。とにかく腹減ったから、牛丼買ってくる」
これ以上コイツと話していると、いよいよ俺の中に溜まっている火山が噴火しそうだったから、財布だけポケットに入れたまま玄関へ向かった。
ようやく解放された暑苦しい革靴に、再び足を突っ込んだ時。
智「俺のも買ってきてー」
姿も見せないまま声だけが聞こえてきて、俺は返事もせず、家を出てバタンとドアを閉めた。
券売機で持ち帰り用の牛丼の券を二枚買い、店員に渡して、店内の隅の方で腕を組みながら壁に寄りかかった。
俺は今日イチの溜息を吐いた。
こんな小さな喧嘩は、しょっちゅうだ。
喧嘩の原因は様々で、どれも下らないものばかりだけど。
だいたいいつも、俺が智の行動に苛立つところから始まる。
俺が智に文句の言葉を投げかけ、それに対して智は冷めた口調で返してくる。
それが余計に火をつける。
どっちかというと、俺の方が熱くなってしまって、智は割と平然としている。
だから、智が怒鳴るなんてことはない。
そのせいか、段々自分一人で熱くなっていることに虚しさを感じ始め、最終的には俺が折れる。
折れると言っても、謝るわけではなく、ただ俺から言い合いをやめるだけ。
今日みたいに自分から家を出ていくことも少なくない。
それが一番、てっとり早いと思うから。
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2018年8月8日 16時
