濃藍のうた〔N O〕 (ページ44)

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別れの準備② ページ44

やがて辿り着いた、自然に囲まれた三角屋根の茶色いコテージ。

季節的に緑の葉はないけど、それでも空気が澄んでいて、心まで澄んでいくような気がした。

俺達は、バーベキューをするわけでもなく、ただコテージの中でいつものようにのんびりと過ごすだけ。

暖房の効いた暖かい部屋の中で、二人でお絵かきしたり、鼻歌を歌ったり。

場所は変わっても、やっぱりこれが俺達にとって一番落ち着く時間で。

「ギター持ってくれば良かったな」て言ったら、「バスんなか邪魔だよ」て言われた。

「ただでさえ、デカイ荷物持ってきたくせに」て言いながら智は、備え付けのアンティーク調の棚の上に飾られたキャンバスの方を見た。

微妙に歪んでいる絵。

智と喧嘩して、俺がキャンバスをテーブルの角に叩きつけて歪ませたから。

あの頃は本当によく喧嘩していた。

毎日毎日くだらないことで言い合って、それでも気付けば仲直りしていて。

あんな風に喧嘩をすることなんて、もう二度と出来ないのだろう。

切ない気持ちで絵を眺めていると、智がふぅ…と怠そうな息を吐いた。

和「…大丈夫か？さとし。疲れちゃった？」

智「うん…ちょっと」

和「少し横になりな」

智「うん…そうする」

すると智は、備え付けのベッドへ行くかと思いきや、ソファで隣に座る俺の膝の上にコトンと頭を乗せてきた。

和「え、ちょっと」

智「カズの膝貸して…」

和「膝はいいけど、そんな体勢じゃ身体が休まらないだろうよ。ベッドに行った方がいいんじゃない…？」

智「ううん…ここがいい」

和「さと…」

智「落ち着く…」

和「………」

目を閉じて、少し苦しそうな寝息を立てる智の頭を、サラリサラリと優しく撫でた。

髪がだいぶ伸びたな…

地毛の黒髪が伸びて、襟足と前髪が少し長くなっている。

俺は智の頬に触れた。

あんなにぷくぷくしていたほっぺたが、ぺったんこだ。

智の容姿が変化していくにつれ、確実にその時が近づいているのを感じた。

夕方過ぎにようやく目を覚ました智と、夜ご飯に簡単なレトルトカレーを食べ、上着を着て完全防備で夜の空の下を、手を繋いで少しだけ散歩した。

冷えるといけないからと、帰ってから一緒にお風呂に入り、やがて一緒にベッドへ入った。

ベッドサイドのライトだけを残して暗くした部屋の中で、俺達は布団の中で手を繋いだ。