別れの準備�� ページ43
智は、倒れて入院した日から1週間後に退院した。
だけど、病状が深刻なことに変わりはないから、すぐに旅行に行くなんて無理で…。
とは言え、智に残された時間はそんなに長くないことから、旅行のことを主治医の先生に必死に相談した結果、智の強い希望をなんとか叶えてあげられることになった。
ただし、いくつか条件がある。
まずは退院してから1週間は、家で安静にすること。
一泊の旅行で、長時間の歩行は禁止。
片道1時間以内で行ける場所。
飛行機は禁止。
そして…
旅行から帰ってきたその日から、また入院すること。
きっとその後は、その時が来るまで病院で過ごすことになるだろうという医師の言葉に、智はためらうことなく「それでもいい」と答えた。
その智の強い気持ちに、俺も応えることにした。
勝手に仕事を辞めた俺は、一日をフルに使って、旅行会社を回ったり、ネットで調べまくったりした。
ようやく決まった旅行先は、都心から少し離れた自然が綺麗なコテージ。
病院の最寄り駅から送迎バスが出ているという、うってつけの条件に、医師の許可も下りた。
こうして俺達の、最初で最後になるであろう旅行の準備が整った。
こうやって智と一緒に外へ出掛けるのも、これで最後になるかもしれない。
俺達はそれを覚悟で、最後の思い出作りの旅へと出掛けた。
送迎バスの中で俺達は、ずっと手を握り合っていた。
「具合悪くないか？」と智に頻繁に声をかけ。
「大丈夫」と答える智が、俺が片手で抱えているキャンバスを見て笑う。
智「旅行にソレ持ってくるかなぁ(笑)」
和「いいだろうよ。大事なものは、いつもそばに置いておきたいんだから」
智「ふふっ、ホント、カズって変わってるよね」
悪いが、お前にだけは言われたくないぞ。
俺の抱えている、智が描いた濃藍色の曲の絵。
楽器よりも大切な、俺の一番の宝物。
病室に飾る前に、コテージに飾りたくて持ってきた。
大事にキャンバスを抱える俺を見て、智はふふっと嬉しそうに笑いながら、窓の外を眺めた。
俺はその横顔を眺め、しっかりと目に焼き付けていた。
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2018年8月8日 16時
