受け止めきれない現実に…�� ページ42
3日間の欠勤を経て、 俺はようやく会社へ出勤した。
着ているワイシャツの襟を整え、スーツをピシッと整えながら、ズンズンと上司の座るデスクへと向かった。
3日ぶりの登場に、上司は相変わらず嫌味を言ってくる。
「呑気にそんな休んでると、クビにされるぞ」て。
その嫌味な顔をジッと見ながら俺は、退職願をバンッとデクスの上に置き、「お世話になりました」とだけ言って、ズンズンと部屋を出ていった。
遠くで叫ぶ上司の声は無視して廊下を歩いていく俺を、櫻井さんは止めることなく黙って見ていた。
俺は決めたんだ。
仕事を辞めて、出来る限り智のそばにいようと。
智の残りの人生に、俺の時間を全て捧げようと。
一度は逃げ出したけど、やっぱり最期まで智のそばにいようと。
俺はスーツを着たまま、智のいる病院へと向かった。
内心、この3日間の間にもしかしたら…と、怖くて怖くて冷や汗が止まらなかった。
だけど。
受付で確認すると、智はちゃんと生きててくれていた。
いまだに個室にいる智の病室のドアをノックし、ためらいがちにドアをスライドさせた。
一気に高まる緊張の中、静かに部屋の中へ入っていくと、酸素マスクは外されて点滴だけつけている智が、ゆっくりと俺の方へ顔を向けた。
目を覚ましたばかりなのか、具合が悪いのか、目はトロンとしていて、俺を見ても表情は変わらなかった。
和「…さとし……」
智「………」
無表情な弱々しい顔で俺を見る智に近づき、ぶらりと力の入っていない手をギュッと握った。
和「…ごめん、さとしっ…3日も顔出さないでっ…ホントにごめんっっ…」
智「……カズ…」
智の手を握りしめながら、ポタポタと涙を落とした。
和「…俺っ…ちゃんと最期までそばにいるからっっ…もう寂しい思いはさせないからっっ…」
智「……ねぇ、カズ」
和「どうしたっっ…？」
智「俺、多分もう…あんま長くないと思う」
智は自分の体のことを悟っていた。
和「そんなことっっ…」
智「あのさ…最後に我儘言っていいかな？」
和「最後とか言うなよっっ…我儘ならいくらでも聞いてやるからっっ…」
智「俺ね…カズと旅行に行きたい」
和「えっ…」
智「一泊でいいから…最後に良い思い出作りたい」
もう…鼻と喉の奥が痛くて仕方がなかった。
和「分かったからっ…だからっ…頼むから最後って言うなよっっ…」
俺達は、手を握り合いながら、一緒に涙を流した。
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2018年8月8日 16時
