それでも俺達は幸せだった�� ページ5
ある水曜日。
お子様はとっくに寝ているであろう時間に、俺はようやく会社を出て、すっかり暗くなった道を何度も溜息をつきながら歩いていた。
俺は今、最高に苛立っている。
それというのも。
会社の上司が、自分のミスを、部下である俺に責任をなすりつけてきたせいで、今日一日エライ目にあった。
そのせいで、どっと疲れも溜まったし、何よりも上司に対して腹が立っていた。
だけど、当然会社の中で発散する場所なんて無く。
その煮えたぎった腸を、結局はお持ち帰りするしかない。
今すぐにでも、このイライラを発散させたい。
とにかく、帰ったらすぐに智に愚痴りまくろう。
智に話を聞いてもらえるだけでも、だいぶ気分がスッキリする。
こんなことは、今までにも何回もあった。
そんな時、智は毎回俺の話を最後までちゃんと聞いてくれる。
うんうんて、余計なことは言わずに、ただ俺の気持ちに共感して頷いてくれる。
それが俺にとって、最高のストレス解消で。
早く智に話を聞いてもらいたい俺は、いつもよりも早足で家へ向かった。
金木犀の香りが漂う公園のそばを通り過ぎ。
ようやく辿り着いた家。
いつ見てもオンボロのアパート。
会社の同期の奴らには、とてもじゃないけど言えない。
連れてくるだなんて、言語道断。
本当は、俺の今の給料で一人暮らしをするならば、もう少し良い所に住めるはずだ。
だがしかし、色んな事情から、今の経済力では、このオンボロアパートにお世話になるしかないんだ。
小さな羽の虫が群がる電灯に照らされながら、ガチャリと古いドアの鍵を開けた。
ああ、腹立ってたせいで、いつもよりも腹ペコだぜ。
狭い玄関に乱雑に脱ぎ捨ててある運動靴を足で寄せ、暑苦しい革靴を脱いで部屋に上がった。
すぐに飛び込んできた景色は。
ローテーブルの上に置いてある描きかけの絵と、テーブルいっぱいに散乱した色鉛筆達。
なんなら、何本か下にも転がっていて。
消しゴムのカスも至る所に散乱。
それをばら撒いた当の本人は、布団の上で丸くなって、ぐうぐう寝ていた。
チラリとキッチンの方へ目を向けても、晩ご飯らしき物は一切ない。
むしろ、料理をした形跡すらない。
今日は智のバイトが休みの日だった。
だから、ご飯は智が用意する日なんだ。
それなのに、この有様だ。
俺は無駄に重いカバンをドサッと床に投げ捨て、ネクタイをグイグイと荒めに緩めながら、智の方へ近づいた。
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2018年8月8日 16時
