濃藍のうた〔N O〕 (ページ34)

今日:17 hit、昨日:20 hit、合計:61,963 hit

穏やかな日々② ページ34

土曜日。

智が潤に会いに行きたいと言うから、一緒に潤の家へと向かった。

あいつの家は、店からそんなに離れていない場所にある。

だから俺は、軽い挨拶と会話を交わした後、智を潤の家に残し、一人で近くにある大学病院へと向かった。

相葉君が月曜日退院だと言うから、最後にもう一度お見舞いに行くことにした。

病室へ入ると、空だった相葉君の隣のベッドには患者さんがいた。

俺は軽く会釈をし、奥のベッドに座る相葉君の方へと近づいた。

「よっ！」と手を挙げて笑顔で挨拶をしてくる相葉君は、元気そうだ。

いや、元から元気だったけども。

足もだいぶ回復して、松葉杖をついて自分で歩けるようになったのだと。

手術をした程の大きなケガも、段々と治っていくんだから、人間の体って凄いなと思う。

ケガは治るのに…

すると、相葉君が少し声のボリュームを落とした。

相「ね。智君の調子はどう…？」

相葉君には、散々絵のことで智の情報を聞きまくっていたから、事情を話していた。

また一緒に住み始めたことも、智の体調のことも何もかも。

和「ああ…うん。今のとこ元気だよ。たまに、病気だってこと忘れちゃうくらい」

相「そっか、良かったぁ～！」

和「でも…薬飲んでるとことか、怠くて横になってる姿を見ると、やっぱりそうなんだ…て、急に現実を思い知らされるけどね」

相「………」

和「でも…ちゃんと覚悟はしてるから、大丈夫だよ」

俺の言葉に、相葉君はほんの少し悲しげな顔をした。

相「そっか…。智君と少しでも長く一緒にいられるといいね…」

下手な慰めは言わない相葉君。

しばらくの間病院で過ごしてきた相葉君には、きっと命の儚さを身に染みて感じていたのかもしれない。

そして、仕事の日。

お昼休みに俺は、櫻井さんとまた例の定食屋に行った。

櫻井さんにもまた、智が家に戻ってきたことや、智の体調のことなど全部話していた。

櫻井さんは、全てを食べ終わると、いつものようにパチッとライターの火をつけて、一服をし始めた。

大きく吸った煙をフゥーと勢いよく吐き出した櫻井さんは、少し複雑な表情を浮かべながら、俺の顔を見た。

櫻「二宮…本当にいいの？このまま一緒にいて」

和「当たり前じゃないっスか！今、一緒にいなきゃ、俺一生後悔しますよ！」

櫻「…きっと、想像以上に辛いと思うぜ？」

和「大丈夫です！」

櫻井さんは、俺なんかよりもずっと現実を分かっていたんだ。