向き合うべき現実�� ページ30
俺はほんの少し智に近づいた。
和「…さとし。ちゃんと話がしたい。お願いだから、こっち向いてくれないかな…？」
智「………」
それでも智は、無言のまま振り向かない。
和「…怒ったり、責めたりなんかしない。泣いたりもしないから…だから…こっち向いてよ」
智「っ……向けないよっ…」
やっと返ってきた言葉は、弱々しいほど震えていた。
和「……なんで…？」
智「…俺っ…どんな顔してカズを見ればいいか分かんないっ…」
和「…いいじゃん、どんな顔だって」
智「……嫌だよっ…」
和「大丈夫だって。どんな顔でもいいから、素直なさとしの顔を俺に見せてよ」
やっと観念したのか、智は恐る恐るといった感じで振り向いた。
久しぶりに見た、その顔は。
以前よりも痩せたのか、ぷくぷくとしていたほっぺたは、輪郭がハッキリ出るほどシュッとしていた。
茶髪だった髪が、黒髪の短髪になったせいか、派手さは全くなく落ち着いた雰囲気で。
それでも以前と変わることのないタレ目は、赤く染まってボロボロと涙を流していた。
和「…さとし…」
智「…ごめんなさいっっ…」
和「…なんで謝るんだよ」
智「…カズにっ…辛い思いばっかさせてさっ…」
和「…辛いのは、さとしの方じゃんか。今まで苦しかったよな。何も気付いてやれなくて、ごめん…」
俺は智のそばへ寄り、肩を震わす智をそっと包むように抱きしめた。
すると智は、俺にしがみつくように胸に顔を埋めた。
智の涙が、俺の着ているスーツを濡らしていく。
今まで我慢し続けた悲しみが、染み込んでいくようだ。
和「…いつからだったの？その…病気は…」
智「…カズとっ…一緒に住む前からっ…」
和「えっ…そんな前から！？なんで、言わなかったんだよ…言ってくれてたら、『正社員の仕事を探せ』だなんて無神経なこと言わなかったのに…」
決して責めるような口調でなく、優しく語りかけるように言った。
智「だってっ…言ったらカズは、俺のこと心配するじゃん…？」
和「そりゃそうだよ…」
智「カズに心配かけたくなかったしっ…それにカズは優しいからっ…俺の体を気遣って、 えっちしてくれなくなるんじゃないかってっ…」
確かに知っていたら、智の体が心配で、なかなか手なんか出せなかっただろう。
智「それだけは嫌だったしっ…カズのこと好きになればなるほど、言えなくなったっ…」
隠されていた智の思いは、胸が張り裂けそうなほど苦しかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 90人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2018年8月8日 16時
