向き合うべき現実�� ページ29
受け入れたくない事実を聞かされ、カウンターに腕をついて頭を抱えた。
だけど…
これが、受け入れなきゃいけない現実なんだ。
智はずっと、一人で抱え込んで、苦しい思いをしてきたんだ。
いつもそばにいた俺に、言えずにいたんだから…
俺はゆっくりと顔を上げ、目の前の男と目を合わせた。
和「…さとしと話がしたい」
潤「何の？」
和「…今までのこと、病気のこと、これからのこと。とにかく、さとしと会ってちゃんと話がしたい」
潤「あんたは智のこと、ちゃんと受け止められたのかよ？」
和「え…？」
潤「この辛い事実を受け止められないまま、ただ闇雲に悲しみだけ伝えて智に辛い思いをさせるなら、やめてくれ」
和「………」
潤「智と一緒にこの辛い現実と向き合っていく覚悟がないなら、智には会わないでくれ」
和「………」
潤「二度とこの店にも顔を出すな」
俺に向けて発せられた厳しい言葉。
だけど。
こいつの言う通りだと思う。
生半可な気持ちで会うのは、智を傷付けるだけ。
会うなら、全てを背負う覚悟で会わなければいけない。
俺にその覚悟はあるのか…？
俺は目を合わせたまま、ゴクッと唾を飲み込んだ。
和「…俺は今でも、さとしを愛してる」
潤「………」
和「嫌でも受け止めるよ。覚悟も出来てる。俺は、さとしと一緒に、この辛い現実と向き合ってくよ」
真っ直ぐに目を見つめて言うと、潤という男はフッと片方の口角だけを上げて笑った。
そして、カウンターを出て、智のいるスタッフルームのドアの前に立った。
そのドアを、トントンと静かにノックした。
潤「智、開けるぞ」
カチャリとドアを開けると、俺の方を見ながら、クイッと顔で部屋の中を指した。
入れよと。
俺は静かに椅子から立ち上がり、スタッフルームの方へと近づいた。
やがてドアの前で彼と目を合わせると、無言で頷く合図を見て、俺は恐る恐る部屋の中へと足を入れた。
完全に部屋の中へ入ると、潤がパタンとドアを閉めた。
気遣って、二人きりの空間にさせてくれたんだ。
和「……さとし…」
智「………」
狭いスタッフルームの中で、智は俺に背を向けた状態で椅子に座っていた。
その背中は、可哀想なほど丸まっている。
智は俺の呼びかけに、返事をしなかった。
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2018年8月8日 16時
