残した影�� ページ21
「時間が経てば、忘れられる日が来る」だなんて言ったくせに。
時間が経てば経つほど、智への思いは募っていく。
会いたくて仕方がなくて、前よりももっと、智の影を追うようになっていた。
あれから俺は、営業の外回りと称して、仕事中の空いた時間を利用して、相葉君の入院する病院へと何回か足を運んだ。
相葉君には申し訳ないけど、お見舞いに来たフリをして、本当は智を探していた。
もしかしたら、また病院に来るんじゃないかと期待して。
だけど、その期待は見事に外れ、バラバラの曜日と時間帯に5回通っても、智とばったり会うなんてことは一度もなかった。
元々勝率の低い勝負。
案の定、掠りもせず惨敗で。
もう望みはないのだと、嫌でも思い知らされた。
それでも諦めきれない俺は、無駄な努力と分かっていて、早めに切り上げた仕事帰りの夕方に、また病院へと向かった。
着いた頃には受付はもう終了していて、診療待ちをしている患者が待合室に残っているだけ。
そこに智はいない。
診療室から出てくる患者の中にも、会計待ちをしている患者の中にも、やっぱり智はいなかった。
いよいよ俺の心はへし折られ、相葉君の顔も見ずに、俺は病院を出た。
すっかり暗い色に染まった冬の空。
寒くて、寂しい色。
その空が、濃藍色に見えた。
濃藍色の空の下を、駅に向かって歩いている途中、ビルの地下に向かって矢印のついているバーの看板が目に留まった。
何度も病院の帰りに通ったのに、こんな所にバーがあるなんて気付かなかった。
それはきっと、明るい時間は看板のネオンがついていないからだろう。
空が暗くならないと気づかないような存在の店に、何故か俺は惹かれるように地下の階段を降りていった。
普段、外で一人で酒を飲むなんてことは滅多にない。
ましてや、バーに行くことなんて10年に1回あるかどうか。
そんな俺が、一人で初めましてのバーに入っていくなんて、よっぽど酒を欲していたのだろう。
まだ開店して間もないのか、店には2人しか客がいなかった。
そもそも店内は想像以上に狭くて、カウンター席が8席ほどの小さな店だった。
2人の客は、それぞれ両端に座って、まったりと酒を飲みながら独りの世界に浸っている。
その様子を入り口で眺めていると、店内に一人しかいないマスターらしき男が俺の顔を見た。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 90人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2018年8月8日 16時
